自治体IT・ICT課題

自治体のIT・ICTにおける課題とは?企業がDX推進するためのポイントを解説

新型コロナウイルス感染症の流行以降、自治体においてもIT・ICTの導入やデジタル化への期待は高まっています。

しかし、IT・ICT関連のサービスを提供する民間企業において「提案しても採用されない」「導入が進まない」と感じる場合もあるのではないでしょうか。

そこで本記事では、自治体のIT・ICTをめぐる現状と課題の構造、導入が進みにくい原因、自治体のIT導入を推進するために民間企業が押さえておくべきポイントを解説します。

自治体のIT・ICTにおける現状とは?

自治体のIT・ICTにおける現状に関し、以下の3つについて解説します。

  • 自治体でIT・ICT活用の必要性が高まっている背景
  • デジタル庁によるシステム標準化の動向
  • 民間感覚では導入が進まないと感じるケースの実態

自治体でもIT活用の必要性が高まっている

自治体では、住民サービスの向上や職員負担の軽減を目的として、行政のデジタル化が進められています。

特に、2020年以降のコロナ禍では、特別定額給付金対応などを通じて、行政手続きのオンライン化やデータ連携の必要性が広く認識されました。こうした流れを受け、国でもデジタル庁の設置や自治体DX推進計画の策定など、自治体のIT・ICT活用を後押しする取り組みが進められています。

自治体で扱われるIT・ICT関連テーマは幅広く、行政手続きのオンライン化、AI・RPAの活用、クラウドサービス導入、窓口DX、データ連携、キュリティ対策、内部事務の電子化(DX)など様々です。

そのため、民間企業にとっては、自治体向けIT・ICT分野のビジネス機会は拡大しているといえます。

デジタル庁による「システム標準化」も進む

近年の自治体IT分野で大きなテーマとなっているのが、「自治体システム標準化」です。

これは、住民記録・税・福祉など自治体ごとに構築・運用されてきた基幹系システムについて、国が定める標準仕様に合わせて移行を進める取り組みです。

これまで自治体ごとに仕様が異なっていたことで、システム改修費の増大、ベンダーロックイン、データ連携の難しさなどが課題となっていました。

標準化に伴い、今後はガバメントクラウドへの移行やネットワーク再構成なども進むと考えられており、自治体IT分野では大きな環境変化が起きています。

民間企業の感覚ではIT導入が進まないケースも多い

一方で、民間企業から見ると、「自治体ではなぜ導入が進まないのか」と感じるケースも少なくありません。

例えば、紙運用が残っていたり、古いシステムを長期間利用している状況があるにも関わらず、提案しても予算化されない経験があるのではないでしょうか。

しかし、これは単に自治体担当者がIT活用に消極的だからという話ではありません。

自治体では、予算・財政に関する法令、行政計画、議会承認、調達制度など、各プロセスにおけるルールが存在し、それらをクリアした場合にある取組みについて予算が確保され事業として発注されます。

そのため、民間企業の感覚で「良いシステムだから導入される」とは限らず、制度や組織の構造を踏まえた理解が必要です。

自治体におけるIT・ICT導入が進まない原因・課題とは?

自治体に対する提案が発注につながらない背景には、予算・調達などの制度的な制約があることを説明しました。

これに加え、特にIT・ICT領域ならではの観点として、以下の3つについて解説します。

  • IT専門知識の蓄積が進みにくい組織構造的な原因
  • 成果指標(KPI)との未接続という課題
  • 単年度予算主義が継続的なIT投資を妨げるメカニズム

専門知識の蓄積不足

自治体においてIT調達を担う職員は、多くの場合IT専門職ではなく一般行政職であり、数年ごとの人事異動によってポストが入れ替わります。

もちろん、人事異動に際して業務引継ぎ書を作成するなど必要な引継ぎは行われますが、ITに関する知識の程度は、職員間でも差があるのが実情です。

総務省「自治体DX・情報化推進概要」(令和7年12月)によると、データ利活用を実施できていない自治体によつアンケートの回答からは、「人材不足」「ノウハウの不足(手段や内容の理解不足)」が課題であることがわかります。

同資料によると、データ利活用が実施できていない自治体のうち、「データ分析・利活用の実施のための人材が不足」を理由とした都道府県は58.3%、市区町村は73.7%、「どのような手段・システムを用いれば良いか分からない」を理由とした都道府県は37.5%、市区町村は55.7%となっています。

(参考)総務省「自治体DX・情報化推進概要(令和7年12月)」(https://www.soumu.go.jp/main_content/001048571.pdf

担当者が業務を通じてIT知識を蓄積し引継ぎを行った場合でも、異動によってその知見が次の担当者に十分に引継がれないことが度々起こり得ます。

そのため、IT・ICTツール等の調達の現場では、「前回の仕様書をほぼ踏襲する」形式が繰り返されやすく、結果として特定ベンダーへの継続依存(ベンダーロックイン)が生まれる一因ともなっています。

外部からの提案内容の技術的な妥当性を判断できる職員が多くなく、専門的な精査が難しいという実態があります。

費用対効果が不明確・KPIに直結しにくいIT投資

自治体では、IT投資の効果を定量的に説明しにくい場面があります。

民間企業であれば、売上向上、コスト削減、利益改善などが投資判断の基準になります。

一方、自治体では行政コストの削減を直接的な予算要求根拠として活用できる場面が限られます。「住民サービスの向上」「職員の業務負担軽減」などの目標・効果は定量化しにくく、担当者が財政課や上司にIT投資の必要性を説明する材料を組み立てにくいです。

そのため、民間企業が自治体に提案する際には「何の課題がどう解消されるか」を担当者が上司に説明できる形で具体的に示すことが重要です。

民間企業側にも、「何がどう改善されるのか」を分かりやすく整理する視点が求められます。

単年度予算主義による継続投資の難しさ

IT・ICTシステム・ツール等は、初期構築、運用・保守、更新・改修など、複数年にわたるコストが発生し、毎年度予算を確保し続ける必要があります。

一方で、自治体の予算は原則として4月から3月までの会計年度単位で編成されます。毎年度ゼロベースでの予算要求が基本となります。翌年度以降にまたがる契約に対応する「債務負担行為」という仕組みはありますが、活用できる事業・金額には制限があります。

IT・ICTシステム・ツール等の導入は、事実上、複数年にわたり当該システム等を使用しつづけることを念頭においたものですので、予算編成時の審査ではその効果について厳しく査定されることが想定されます。

また、前年度からの継続利用を行う場合も、部局全体での予算額削減要請等の事情から、保守対応工数等を減じたうえでの継続利用を迫られる場合もあります。

民間企業が自治体のIT・ICT導入を推進するために押さえておきたいポイント

こうしたことから、民間企業が自治体のIT・ICT関連の課題についてアプローチする際には、自治体の意思決定・調達ルールを踏まえた取り組みが重要です。

ここでは取組みにおけるポイントとして、以下の3つについて解説します。

  • 民間企業と自治体では意思決定プロセスが異なる
  • 提案しても受注には入札参加が前提となる
  • 自治体業務は分野ごとに特性が異なる

民間企業と自治体では意思決定プロセスが異なる

自治体に対してIT・ICT導入を提案し、導入を実現するためには、自治体がサービス等を調達する際のプロセスを理解しておくことが重要です。

自治体が物品や役務(サービス)を外部から調達する際には、「首長公約・施政方針、行政計画」に行政課題に対する個別の施策が掲記され、その施策を実行するために予算が編成され実際に入札等で調達を行います。

そのため、担当者レベルでどれだけサービスの有用性を理解し、導入のメリットを感じていても、行政計画に事業が位置づけられていなければ、予算の難易度は高いものになります。

そのため、民間企業が自治体のIT・ICT導入を提案する際は、行政計画の策定・改定時期に合わせてニーズを把握し、当該分野に知見を有する一つの企業として情報提供し、計画や予算への反映を支援するアプローチが有効といえます。

提案しても受注には入札参加が前提となる

自治体のIT・ICT案件を含むサービスの調達は、原則として一般競争入札によることが原則です。業務内容が高度な場合などは、価格以外の要素も評価されるプロポーザル方式が採用されることもあります。

したがって、自治体に対し情報提供や提案活動を行い実際に発注されることになった場合であっても、競争入札参加資格を有しない場合は、入札に参加することすらできない可能性もあります。

そのため、提案活動と併せて、各自治体においてどのような参加要件を付して入札・プロポーザルが行われているのかを事前に把握しておくことが重要です。

自治体業務は分野ごとに特性が異なる

自治体は、税・福祉・保健・土木・教育・環境など多様な業務を担っており、それぞれに独自の業務フローと制度的制約があります。

民間企業が単一のITソリューションを複数の自治体・部局で提案しようとしても、実際には部局ごとの個別対応が必要になるケースが想定されます。

そのため、「どの業務・どの部局を狙うか」を絞り込み、その部局が抱える具体的な課題に対応した提案を組み立てることが、自治体IT・ICT案件で実績を積み上げる際には基本となります。

民間企業と自治体では業務設計の前提が大きく異なるため、担当者の業務実態を丁寧にヒアリングした上で提案内容を組み立てることが重要です。

自治体におけるIT・ICT導入の傾向

IT・ICTの導入について、以下の3つに整理して解説します。

  • 全庁一括ではなく特定業務から段階的に始まるパターン
  • 業務改善・コスト削減を起点とした導入のアプローチ
  • 実証実験・パイロット導入から本格採用に進む流れ

全庁導入よりも特定業務から始まるケースが多い

自治体のIT導入は、全庁を一斉に対象とした導入だけでなく、特定の業務・部局を「モデル事業・部局」として先行導入することから始まるケースもあります。

窓口業務のデジタル化、内部事務の電子化、特定の申請手続きのオンライン化など、業務課題が明確な分野から着手されやすい傾向があります。

先行部局での導入実績と効果が確認されると、他部局への横展開の検討につながります。

業務改善を起点とした導入

自治体によるIT・ICT導入が実現するためには、「現場の業務課題が明確に改善できる」という根拠が示せる必要があります。

紙書類の電子化・重複入力の解消・問い合わせ対応の効率化など、担当者が日常的に感じている具体的な課題に直結した提案は、担当者が上司や財政課に対して予算化の根拠を説明しやすいです。

「コスト削減」「効率アップ」などの抽象的な理由づけは十分でなく、定量的な見通しが求められます。

提案の起点を「現場の困りごとの解消」に置くことが、採用されやすい提案の条件となっています。

実証実験から導入検討が進むケースも多い

近年の自治体IT・ICT案件では、まず小規模な実証実験やモデル事業として導入を行い、効果が確認できた後に本格導入へと進むパターンが見られます。

こうした実証・モデル事業への参加は、民間企業にとって案件を獲得するよりも参入障壁の低い入口となっています。実証段階から関与することで、本格調達に向けた仕様策定に一定の影響力を持ちやすくなる点でも、こうした案件への早期参加は戦略的な意義があります。

なお、自治体のIT・ICT活用の具体的な事例については、以下の記事もあわせてご覧ください。

https://www.b2lg.co.jp/jichitai/20260410/

自治体のIT導入の事例

例えば北海道余市町では、クラウド型の電子決裁システムを導入し、庁内の決裁業務をデジタル化しました。従来は紙による回覧や押印が中心であったため、決裁完了までに時間を要していましたが、電子決裁システムの導入により決裁業務の効率化を実現し、決裁完了までの日数を大幅に短縮しています。

この事例から分かるように、自治体のIT導入は「全庁的なDX」から始まるとは限りません。まずは決裁業務や申請業務など、課題が明確な業務を対象に導入し、効果を確認しながら横展開されていくケースもあります。

自治体への提案を検討する事業者にとっては、全庁的なシステム刷新を提案するだけでなく、内部事務の効率化や職員負担軽減につながる特定業務の改善提案が、導入のきっかけとなる可能性があります。

自治体が抱える個別業務の課題を把握することが重要です。

(出典)総務省「自治体DX推進参考事例集【第3.0版】」
https://www.soumu.go.jp/main_content/001017774.pdf

まとめ

自治体のIT・ICT課題は、技術的な問題というよりも、予算・組織・制度の構造に起因する問題といえます。IT専門人材の不足、単年度予算の制約、複雑な意思決定プロセスが重なることで、IT導入が遅延しやすい環境が形成されています。

そのため、自治体IT分野に参入する民間企業には、入札参加資格の取得と行政計画への早期インプットを組み合わせた中長期的なアプローチが求められます。まず特定の業務課題を解消する実績を積み上げ、担当者が「上司を説得できる材料」を提供し続けることが、自治体との取引を安定的に広げていく上での基本となります。

株式会社LGブレイクスルーでは、BtoG市場への参入や展開を検討する企業に対し、伴走型コンサルティングを提供しています。個別相談も受け付けておりますので、自治体向け事業の検討にあたってお困りの点がある場合は、お気軽にお問い合わせください。

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