公民ビジネスにおける民間委託とは?

目次
はじめに
内閣府の経済財政政策には「民間資金等活用事業(PPP/PFI)」があり、積極的に民間委託を進めています。
- そもそも民間委託とはどのような制度なのでしょうか?
- なぜ民間委託が拡大しているのでしょうか?
- 民間委託とPPPやPFI、指定管理者制度はどのような違いがあるのでしょうか?
ここでは民間委託について解説します。
民間委託とは
公民ビジネスの事業領域3つ
公民ビジネスとは、国や地方自治体といった「公」が民間企業などの「民」に発注する、
対価が生じる仕事のことです。
この公民ビジネスには、「工事」と「物品」と「役務」の3つの事業領域があります。
工事 | 建設工事や土木工事などの公共事業 |
物品 | 官公庁で使用する物品 |
役務 | ソフト事業やサービス |
このうち、民間委託という契約は、3番目の「役務」にあたります。
それでは、民間委託とは何かについて定義を明確にしましょう。
民間委託の定義
民間委託とは、簡単に表現すると
✔︎ 本来、国や地方自治体などの官公庁が行う公共サービスなどを
✔︎ 官公庁が直接行わず ✔︎ 民間業者に行ってもらうこと |
です。
国や地方自治体などの官公庁が、民間企業からサービスなどを購入します。
民法を根拠とする民間委託契約は、「請負契約」「準委任契約」に該当します。
請負契約 | 民法632条 | 当事者(民間企業)の一方がある仕事を完成することを約し、相手方(官公庁)がその仕事の結果に対して報酬を支払うことを約す契約です。 |
準委任契約 | 民法656条 | 法律行為ではない事務を委託する契約です。 |
民法を根拠とする民間委託契約だけでは現代のニーズに対応できないため、PFI法(PFI制度)や地方自治法(指定管理者制度)の規定の契約が出てきています。
民間委託には「個別的民間委託」と「包括的民間委託」があります。
【個別と包括】
個別的民間委託 | 部署や業務ごとに個別に委託契約を結び、発注します。原則的に単年度契約です。 |
包括的民間委託 | 部署や業務区分や年度を超えて、包括的に委託契約を結び、発注します。 具体的な仕様書での発注ではなく、成果や性能(パフォーマンス)を重視した委託契約です。 そのため、民間企業に大きな裁量があります。 原則的に複数年度契約です。 |
民間委託契約は発注方法の違いから「性能発注」と「仕様発注」に分けられます。
✔︎ 性能発注方式とは、委託した民間企業には、一定の性能(パフォーマンス)を求めるが、具体的な業務運営は民間企業に任せる方式。
✔︎ 性能発注方式は、包括的民間委託のことです。
欧米諸国の民間委託はこの性能発注方式をとります。
性能発注方式(包括的民間委託)と仕様発注方式(個別的民間委託)の違いは次のとおりです。
性能発注方式(包括的民間委託) | 仕様発注方式(個別的民間委託) | |
民間企業の役割は? | 民間企業が運営の主体となって業務を行います。 | 国や地方公共団体の補助者として業務を行います。仕様書のとおりに業務を行います。 |
委託された業務の範囲は? | 包括的に委託されます。 | 部分的に委託されます。 |
契約年度は? | 複数年契約 | 単年度契約 |
民間企業が委託業務を行う上での自由度は? | 自由度が大きな契約です。 雇用する職員数なども民間企業の裁量で決定します。 |
自由度は限られている契約です。 公的な監査の対象になるため、厳密な仕様書作成とその実行が求められます。 |
目標を達成するかどうかの責任の所在は? | 明確な契約が行われます。 責任をどう取るのかについて明確な契約があります。 |
契約書には明確な規定は少ないです。 原則的には、仕様書のとおりに業務を遂行していれば、仮に目標を達成できなくても民間企業は責任を取らなくても良いことがあります。 |
維持管理業務の作業のしやすさは? | 作業しやすい。 委託された民間企業の創意工夫が実行できるため、作業しやすくなります。 |
作業しにくい。 あくまでも仕様書のとおりに業務を行わなければならず、企業の創意工夫が活かしにくい傾向にあります。 |
国や地方自治体といった官公庁と民間委託契約を結ぶ際は、包括的民間委託契約・性能発注方式)であるか、個別的民間委託契約・仕様発注方式であるか確認が必要です。
※官公庁によって、発注する民間委託業務によって契約内容が変わりますので、必ず契約内容を確認ください。
民間委託の事例
地域の公共窓口サービスの民間委託契約の事例としては、次のような事例があります。
出張所・連絡所の窓口業務 |
住民基本台帳に関する窓口業務 |
住民票の写し等の請求業務 |
戸籍事務業務 |
国民健康保険料関係業務 |
妊娠届及び母子健康手帳関連業務 |
介護保険関係関連業務 |
車庫証明関連業務 |
旅券関係業務 |
地域の行政の窓口業務の民間委託については、定期的に効果が検討されています。
これらの他に、下水道処理などの業務も民間委託されています。
現在、地方自治体の下水道処理は、9割以上が民間委託で運営されています。
全国の下水処理施設約2200箇所のうち、包括的民間委託方式をとっている下水処理施設は471箇所です。
なぜ民間委託が拡大しているのか?
民間委託拡大の流れ
民間委託の拡大は、小泉政権による構造改革の平成13年「骨太の方針」が起点とされます。
小泉政権の「民営化・規制改革プログラム」にて、「民間でできることは、できるだけ民間に委ねる」という方針が決まりました。
この時民営化と規制緩和の対象になったのは、「医療、介護、福祉、教育などの分野」でした。
民間委託をさらに対象範囲を拡大した制度もできました。
指定管理者制度や、PFI制度、コンセッション制度などです。
成熟社会でニーズが多様に
成熟社会とは、
✔︎ 人口減少が明確化し、
✔︎ 本格的な少子高齢化社会に入った |
社会のことです。
人口減少と少子高齢化のため、消費や所得が右肩上がりに拡大することは見込めません。
行政ニーズも多様化しており、民間企業のノウハウや創意工夫が必要とされています。
財政問題
(出典 財務省「我が国財政の現状について」)
現在、財政拡大理論であるMMT(Modern Monetary Theory)が話題です。
しかし、40年以上特例公債(赤字公債)が発行され続けており、日本の国や地方は財政問題を抱えている状態です。
財政難であることは国や地方自治体共通の認識です。
行政支出の無駄を省くことは、国や地方自治体の大きな目標になっています。
そのため、民間企業のノウハウやアイデアに期待が高まっています。
民間委託が難しい業務
行政サービスは、国民や地域住民の生命や人権に係る重要な業務があります。すべての業務を民間委託することはできません。
民間委託が難しい業務に、「法律上、民間委託ができないとされている業務」「裁量が必要な業務」「統治作用に深く係る業務」があげられます。
【民間委託が難しい業務】
業務 | 内容 |
法律上、民間委託ができないとされている業務 | 国や地方自治体などの官公庁が、直接行わなければいけないと法律上決められている業務です。 |
裁量が必要な業務 | ルーティン作業は民間委託に適しています。 しかし、裁量が必要な業務は、民間委託に適していないことがあります。 |
統治作用に深く係る業務 | ①住民の権利義務についての業務など、住民に直接的・間接的影響の大きな業務については、民間委託が適していません。 ②官公庁の意志決定など重要な業務については、民間委託が適していません。 ③利害対立が激しい業務については、民間委託は適していません。 公平な審査を行うには、官公庁の方が適しているからです。 |
PPPとは?指定管理者制度・PFIとの違いは?
PPPとは
PPPとは、Public Private Partnershipの略です。
P= Public(官公庁)
P= Private(民間企業) P= Partnership(連携) |
です。
PPPは、官民連携事業の総称です。
「民間委託」「PFI制度」「指定管理者制度」もこの中に含まれます。
民間企業への公有地の貸し出しも、PPPに含まれます。
官公庁と、民間企業がお互いの強みを活かし、より良い行政サービスを提供します。
(出典:内閣府「PPP/PFIの概要」)
指定管理者制度とは
指定管理者制度とは、公の施設の運営を、民間企業などに任せる制度です。
指定管理者制度ができるまでは、公の施設の運営は、公的な団体に限られていました。
平成15年の地方自治法改正で、指定管理者制度が始まりました。
平成30年度の調査では、指定管理者制度が導入されている施設数は76,268施設にもなりました。
民間委託と指定管理者制度は次のような違いがあります。
【根拠法が違う】
民間委託(業務委託) | 民法が根拠法 |
指定管理者制度 | 地方自治法が根拠法(地方自治法244 条) |
【法律上の性質が違う】
民間委託(業務委託) | 官公庁と民間企業との契約 |
指定管理者制度 | 官公庁が、民間企業を「指定」する行政処分 |
指定管理者制度の導入により、従来民間委託の契約ではできなかった公的施設管理が可能になりました。
PFIとは
PFIとは、Private Finance Initiativeの略称です。
平成12年にPFI法が成立しました。
PFI制度とは、公共事業の実施方法のひとつです。
従来の公共事業の発注では、設計や建設、維持管理は別々に事業者を選び契約を結びました。
かつ運営主体はあくまでも国や自治体といった官公庁でした。
しかし、PFI制度により、設計から維持管理、運営まで一括して民間企業などに発注することが可能になりました。
民間委託と、PFI制度は次のような違いがあります。
【性質の違い】
民間委託(業務委託) | 一部のみ民間委託 |
PFI制度 | 民間が整備した施設を民間が運営する。 |
【根拠法が違う】
民間委託(業務委託) | 民法が根拠法です。 |
PFI制度 | PFI法が根拠法です。 |
【資金調達が違う】
民間委託(業務委託) | 公的資金のみを使う。 |
PFI制度 | 資金の一部を金融機関から融資してもらうことも可能 |
おわりに
いかがでしたでしょうか?民間委託は、人口減少及び少子高齢化が明確になった日本において進められています。
官公庁ビジネスにおいても重要な発注方式ですので、是非この機会にご確認ください。