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自治体職員との「対話」とは
これまで半年の間、自治体内での予算編成の内幕をお話しし、自治体と一緒に仕事をするうえで知っておいたほうがいいことを書き連ねてきましたが、読者の方から「役所の内情はわかった。で、我々民間企業はどうすればいい?」とのご質問をいただきました。
第5話「自治体職員との「対話」」では、自治体が求めているもの、悩んでいることを知るために自治体職員との「対話」に挑戦してみてください、と書きましたが、その糸口をつかむのが大変厄介なのですよね。
今日は、そんな自治体職員との付き合い方についてお話しします。
第5話の記事はこちら
自治体職員は「対話」が苦手
自治体職員は「対話」が苦手です。
その要因は、対話の前提とされる「心理的安全性」の不足です。
我々自治体職員は、胸襟を開いて市民の間に“個人的”に入り込むことをあまり好みませんが、そこには自治体職員の「心理的安全性」を損なう二つの理由があると私は思っています。
一つは、市民の心の奥底に常にある「役所への不信」です。
多数の市民の前に自分をさらせば、世の中には一定数「役所が嫌い」な人たちがいて、私たち自治体職員のことを隙あらば揚げ足を取ってやろうと手ぐすねを引いている。そう感じて私たちはつい過剰に身構えてしまうのです。
しかし、実際のところは役所や公務員に対して批判的な感情を持っている人ばかりではありませんし、むしろ役所だから、公務員だからとその言葉や行動を無条件で信じてくださる方々もたくさんおられます。
じゃあ、もう少し腹を割って素の自分をさらせばいいじゃないか。
しかし、二つ目の理由がこれを阻みます。
それは、公務員としてどのように見られるか、と私たち自治体職員側が過剰に自己規制していることです。
個人で民間人と親密になったことが情報漏洩や癒着につながると他の市民から誤解されたら、自分の責任権限以外のことで口を滑らし他の所属や上司に迷惑を掛けたら、そんな不安が頭をよぎります
また、職場や階層によって役割分担が厳格な組織の中にいると、与えられた守備範囲だけしっかり守ればその外側のボールが取れなくても責任は問われませんが、自分で則を超えて外の世界に踏み出したところで、そこでやり損なっても誰もフォローしてくれないどころか、なぜそんな越境をしたのかと叱責されるだけです。
市民が求める行政の公平性、無謬性を過剰に追求するあまり自らの築いた城郭の中に閉じこもり、その中にあるのは緻密な分業分担が組織・個人の責任権限を分断し、挑戦による加点のない減点主義が支配する組織。
私たち自治体職員が自らを開き市民の中に飛び込んでいけないのは、こんな組織的な背景があるのです。
「立場の鎧」を脱がない自治体職員
自分が勤めている自治体の取り組むある施策について、家族や友人などからその評価について尋ねられた場合、多くの公務員はこう考えます。
「管理職でもないのに意見を述べてそれが自治体の見解ととられてはまずい」
「所管外なのに意見を述べれば所管課に迷惑がかかる」
「個人で意見を述べていると組織の中で浮いてしまう」
「首長や議員、人事課などから変なやつだと目をつけられる」
「一般市民から個人的に意見されたり誹謗中傷されたりするのは御免だ」
など、自分が意見を言うことのリスクが頭の中を駆け巡り、結局何も言わないのが無難と口をつぐんでしまう経験、自治体職員なら誰でもあると思います。
こんな臆病な自治体職員に「さあ、対話しましょう!」と役所ムラの外に誘い出したところで、そこに出てくることができるのはある程度役所ムラの外との関係性を作り、自分なりの立ち位置を定めることができる人だけです。
多くの自治体職員は、市民を過剰に恐れ、自分が背負う看板の重みに耐えることができず、その強固な「立場の鎧」を脱ぐことができないのです。
しかしながら、「対話」のできない自治体職員は市民に不幸をもたらします。
市民のニーズを的確に把握できない。
行政内部で起こっていることを市民に理解してもらうことができない。
そんなコミュニケーション不足の中で、市民の求めるものをどのように把握し、優先順位をつけ、財政等様々な制約の中で政策判断をしたのか、をきちんと市民に開示し理解してもらえなければ、市民のフラストレーションはたまるばかりで行政への満足度、信頼度は高まらず、その幸福度も高まりようがありません。
このため、私はこれまで、自治体職員に対して「立場の鎧を脱いで身軽になろうよ」と声をかけ続けてきました。
変革の必要性を感じた公務員がそれぞれ自分の感じる危機感や変革意欲に応じて自分の殻を破り、市民との対話に挑戦すること。
あわせて、周囲がその行動に賛同できるのであれば同じ行動をとることができなくても歓迎賛同の意を陰ながらでも示し、その賛意を伝えること。
その積み重ねで少しずつ実際に公務員の職場風土や仕事のやり方、市民との関係性が変わり、「対話」や「自己開示」が組織文化として定着する世の中がくるのではないかと考え、私自身そのことを発信し続けています。
あなたをもっと知りたいな
この動きを役所ムラの外側にいる一般市民がどう支えるか。
ありがたいのは我々自治体職員のことを「知りたい」というラブコールです。
我々「中の人」が当たり前のように知っていることでも、役所ムラの外では全く知られていないことがたくさんあります。
役所の中での政治権力闘争やまだ決定していない政策の検討状況など、外に出せない下世話なオフレコ話ではなく、そもそも自治体職員が日々どんな仕事をしているか、市民とはどう接しその中でどんなことを感じているのか、など、我々自治体職員の生態に関することであれば、気軽に尋ねてくれたら答えることができ、その中には豆知識として明日誰かに伝えたくなる話も結構あります。
私が「自治体予算獲得への道」でご紹介した話もそういった関心に対応しながら書いてきました。
その中で、政策や予算は誰がどのように決めているのか、今本当に取り組むべき課題は何かなど、市民が「知りたい」と思う役所ムラの実情を共有していただき、よりよい自治体経営に向けた次の一手を打つのに役立てほしいと思っています。
我々自治体職員が知っていること、経験していることについて一般市民の皆さんがちょっと興味関心を寄せていただくことで、役所ムラの中と外の距離がグッと近づく。
その情報の開示共有を通じて互いの心理的な距離が縮まり、聴いてもらえた、知ってもらえたという安心感から、我々が頑なにまとい続けている「立場の鎧」を脱ぐことができるようになる。
そんな場が役所の外にあり、市民の皆さんが役所のこと、公務員のこと、財政のこと、政策のこと、政治のことを知りたがる。
そこに我々「中の人」がやってきて「それはね・・・」と気楽に気軽に語り始め、その語りを肴に対話の輪が広がっていく。
そんなことが当たり前になったらとても楽しくなりますよね。
多くの自治体が自らの施策事業を市民に説明し理解してもらうために様々な情報を発信していますが、その具体的な施策や事業への理解という段階の一歩手前に「役所ってどんなところ?」「役所の人って毎日何をしてるの?」「役所、役場とどんなふうにつきあえばいいの?」という基本的な理解を共有するフランクな場を作り、臆病な自治体職員でも立場の鎧を脱ぎ捨てて市民との対話の輪の中に足を運ぶことができるようになれば、自治体職員と一般市民を隔てる深い溝を埋め、気軽に対話できる雰囲気をつくり、そんな場や仲間を増やしていけたらいいなと思っています。
民間企業は何をすればいいのか
自治体と取引をしたいという民間企業の方はたくさんおられます。
しかし、取引以前の話として、自治体のこと、自治体職員のこと、もっと知りたいと思いませんか?
どんなことでも構いません。
まず興味を持っていただき、「あれってどうなってるの」「これってどういう意味なの」と気軽に、素朴に問いかけることができ、その問いに対して自治体職員が安心して安全に応えることができる聖域(サンクチュアリ)を自治体の外側に設けていただければ幸いです。
私たち自治体職員がその場に出ていくことが怖くない場所。
そこで話したことについて組織として責任を取らされない場所。
それでいて個人的には言いたいことが言えて聴きたいことが聴ける安全な場所。
第5話でご紹介した「勉強会」もその一例です。
しかし、その前段として、自分の取引先でなくてもいいので自治体職員の友達を持つ、個人的に情報発信している自治体職員とSNS等で関係性を持つ、自治体職員の書いた本や寄稿記事に目を通し、質問や意見を投げかけてみる、など「知りたい」という気持ちを前面に出してコミュニケーションをとろうとしてもらうことが、自治体職員との「対話」の第一歩になると思っています。
この寄稿もそんな第一歩をお手伝いするものになれば幸いです。
皆さんは、自治体のこと、私たち自治体職員のこと、役所ムラの中で起こっていること、どんな話に興味がありますか?
今村 寛(福岡市職員)
財政課長時代に培った知見を軸に出張財政出前講座を全国で展開し約10年間で220回を数える傍ら、市職員有志によるオフサイトミーティング「明日晴れるかな」を主宰。「対立を対話で乗り越える」を合言葉に、職場や立場を離れた自由な対話の場づくりを進めている。著書/ 『自治体の“台所”事情~“財政が厳しい”ってどういうこと? 』(ぎょうせい),『「対話」で変える公務員の仕事~ 自治体職員の「対話力」が未来を拓く』( 公職研)。
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