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今日で最終回
7月から始まった「自治体予算獲得への道」ですが、今回が最終回となります。
概ね2週間に1回のペースで自治体内部での予算編成のスケジュールや予算査定の手法、議論になる着眼点などをお話ししてきましたが、皆さん、いかがでしたでしょうか。
自治体の外側からだけではなかなか伺い知ることができないことを情報として知ることができた、という方も当然おられるとは思いますが、多くの方は「で、どうすればいい?」という反応なのではないかと思います。
私も筆を進めながら、具体的なノウハウよりもベースとなる考え方に力点を置くべきと考えるようになり、結果的に精神論のようなまとめ方になってしまいました。
具体的なノウハウとしての情報提供を期待されていた方には申し訳なく思います。
季節は12月。自治体の予算編成は今が佳境です。
すでに要求調書は財政課に提出され、財政課では今、年明けに首長にあげる原案を固める最後の詰めをしています。
この段階になると民間企業の皆さんはもちろん、予算要求を上げた現場の職員ですら預かり知らぬ密室での最終調整に入っていますから、財政課の人間以外誰も予算編成に関わることができません。
ではこの時期、民間企業の皆さんは何をすべきなのでしょうか?
夏を制するために冬を制す
第2回で「夏を制する者は予算編成を制す」と書きました。
その趣旨は、実際に予算編成が始まる秋以降には各部局で実施したい事業の骨格はすでに固まってしまっており、事業のスキームや手法について自社に有利な提案をするには夏場の段階で直面する行政課題そのものを共有しなければならないということでした。
しかしながら、実態としては夏場に初めて突撃営業で所管課のドアを開けるというのでははっきり言って間に合いません。
第3回や第5回でご紹介した行政課題の共通認識を持つための勉強会やその前段としての行政職員との「対話」について夏場に実現させるためにはもっともっと前の段階から仕込んでおかなければ動きません。
このため、予算編成が財政課の密室作業に入る12月から冬の間に、次年度予算編成を見据え、次の夏に向けたロビー活動が必要だというわけなのです。
ここでいうロビー活動は、何かを働きかけたり、自社のサービスを知ってもらったりという具体的な協議交渉ではもちろんなく、これまで推奨してきた「対話」でもありません。
まずは「対話」の前段として、他愛もない「雑談」レベルのコミュニケーションから始めましょう。
別に相手が真剣に聞いてくれなくてもいいし、自分も真面目に聴く必要も、あるいはその話題をわざわざ選び、真面目に話す必要もないものです。
もちろん、雑談として成立する程度には真面目に話題を選ぶ必要はありますし、その雑談が互いの心理的な距離を近づける効果はありますが。
「雑談」で打ち解けてきたら次は「対話」です。
「雑談」に比べると、少し自分の内面を開き、相手の言葉を真摯に受け止めるという姿勢がお互いに必要になります。
話の内容に一定の主張があり、その主張を否定も断定もせずに尊重し傾聴する。
意味のない「雑談」と、物事を決めるための「協議交渉」「議論」とのちょうど中間点に「対話」があるのです。
「対話」は、お互いの内面を開示する必要がありますので、相手にそれを許容してもらえるという心理的安全性が必要になります。
ここで話したことで誰かから攻撃されたり、責任を取らされたりすることはない、という担保がなければなかなか自分の内面を率直に開示することは難しいでしょう。
こうした「対話」の積み重ねの先に初めて「協議交渉」「議論」といった「商談」があるのです。
共通項を探そう
そうはいっても、仕事中の自治体職員をつかまえて「雑談」だの「対話」だののやりとりをお願いすることは至難の業。
じゃあどうすれば「雑談」や「対話」を始めることができるのか。
それは自治体職員向けだから特に攻略法があるわけではなく、通常の人付き合い、特に恋愛と同じで「相手のことを知りたい」「自分のことを知ってほしい」と思う気持ちからスタートするしかありません。
恋愛だって、街で見かけた気になる人にいきなり結婚を前提としたおつきあいをお願いしたりはしませんよね。
何に興味があるのか、どんなものが好きなのか、自分とのウマがあうのか、を手探りで確認しながらだんだんと距離を縮めていく。
その時間をかけられるのが今、この冬の時間というわけです。
ところが民間企業の方がこの時期役所に来られても、お話しいただくのは単なるご挨拶の名刺交換か、極めて具体的な商談のどちらかで、その中間にある「雑談」も「対話」もない印象です。
これでは互いの心理的距離は縮まらず、安全性を確認しながらの忌憚のない情報交換もできません。
前にも書いたように自治体職員は自己防衛心が強く、簡単には心を開かないのです。
そんな自治体職員の心を開く、「相手のことが知りたい」「自分のことを知ってほしい」というアプローチ、具体的にはどんな共通項を探せばいいのでしょうか。
予算獲得も受注もゴールではない
この連載では、民間企業の皆さんが行政の仕事を受注することを仮のゴールとして設定し、その前段として予算を自治体内で獲得するその過程を皆さんとともにたどってきましたが、そもそもそのゴール設定で正しいのでしょうか。
私たち自治体職員は、民間企業の方から取引先、受注先とみられることを快しとはしません。
役所の外にいるのは、私たち自治体が実現したいことを理解し、共感して力を貸していただけるパートナー。
商品の売買、契約の受注と納品で終わる関係ではなく、お互いのいいところを持ち寄って課題を解決していく継続的な関係性を求めています。
恋愛から結婚に至る過程では、どんな家庭を築き、どんな人生を歩んでいきたいか理想を語り共有する瞬間が必ずありますが、それと同じだと思ってください。
従って、自治体職員との雑談、対話は契約受注がゴールではありません。
私たちが目指す共通のゴールは住民福祉の維持向上。
官と民とが互いにできることを持ち寄り、より効率的、効果的に実施するためには、契約をする、しないに関わらず、商談にすら至らずとも、日々互いに交わす雑談や対話の中で「公共」が果たすべき役割を共に果たそうとするその姿勢、視座、そしてそのために必要な情報を官民で共有し、それをいつかのタイミングで生かしていこうとする関係性の構築が必要なのです。
予算を獲得し、獲得した予算を執行するうえでの受注者となるというのは、「公共」を共に担うパートナーとして果たす役割の重要な一部ですが、それだけをゴールに見据えて営業活動にいそしむのではなく、まずは「実現したい公共の姿」の共有から始めましょう。
皆さんが自治体と一緒に何を実現したいのか、という一段視座の高い、長期的な、公共的視点を以て自らの使命をとらえ、自治体のことを知っていただき、その姿勢をベースに私たち自治体との共通の目的の実現に向かって手を差し伸べて頂きたいと思います。
今村 寛(福岡市職員)
財政課長時代に培った知見を軸に出張財政出前講座を全国で展開し約10年間で220回を数える傍ら、市職員有志によるオフサイトミーティング「明日晴れるかな」を主宰。「対立を対話で乗り越える」を合言葉に、職場や立場を離れた自由な対話の場づくりを進めている。著書/ 『自治体の“台所”事情~“財政が厳しい”ってどういうこと? 』(ぎょうせい),『「対話」で変える公務員の仕事~ 自治体職員の「対話力」が未来を拓く』( 公職研)。
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