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自治体職員と「対話」してみよう
元・福岡市財政局財政調整課長による自治体の予算編成に関する打ち明け話「自治体予算獲得への道」も今回で5回目。
前々回の第3話はちょうど自治体で予算編成の準備が始まるこの時期に、このメルマガをお読みの民間事業者の皆さんが何をすればいいのかを書きました。
秋から始まる予算編成を前に、自治体職員は考えます。
自分たちの取り組んでいる施策事業の成果や課題について。
そしてそれらを踏まえた次年度以降の取り組みについて。
担当する事業領域において、何がどういう状態になることを目指すのか。
そのために何をやるか、どうやってやるか、どのくらいやるか。
その検討に際して、民間事業者の皆さんも加わっていただき、一緒に知恵を出すために、この時期、民間事業者の皆さんが自治体職員とすべきこと、それは「情報共有」と「相互理解」、すなわち「対話」です。
「対話」は、話す内容自体に到達するゴールを持たない「雑談」でもなければ、結論というゴールに向かってひたすら持論を展開し相手を説得、論破する「議論」でもありません。
「対話」とは「雑談」と「議論」のちょうど中間にある、互いに相手の立場や主張を理解しようとして言葉を交わすことを言います。
まず、胸襟を開いて自らの内心を忌憚なく開示する。
併せて相手の立場、意見を先入観なく拝聴し、ありのまま受け入れる。
互いに言いたいことが言えて聴きたいことが聴ける。
発言内容で言質を取り責任を発生することもない。
そんな心理的安全性が確保された関係性を構築できればしめたものです。
最適な事業手法検討のために
以前も書いたように、自治体の職員は自分たちが困っていること、解決したいことについて簡単には口を割りません。
また、口を開くとしたらある程度具体的にニーズが確定しているときで、その場合はニーズについて発注するための仕様書の案や費用積算に必要な見積書を求めてくることがありますが、それは「指示」であって言われたとおりに対応するだけの話。
そこに民間事業者ならではの創意工夫が発揮できる余地はわずかです。
多様で柔軟なアイデアを出し合い、その中から魅力的なものを選び、実現に向けて磨き上げていくその出発点としては、まず互いに胸襟を開き、対象とする社会課題等の事象の現状についての共通の認識を持つためのフラットな情報共有が必要です。
そのうえで、その現実を自治体職員がどうとらえているかをその置かれている立場、状況と併せて理解し、共感すること、また自分たち民間事業者がその現実をどうとらえたかを伝え、自分たちの立場や能力に応じた「できること」を提案し、自治体職員に受け取ってもらう必要があります。
同じ事象を官民の違う視点からとらえ、それぞれの立場でどう見えているかを相互に理解し共感すること、そのうえで官民それぞれの役割や能力に応じて異なる、できること、すべきことを相互に理解し、官民の分担、連携、協働の関係性構築を図ることが、最適な事業手法を検討していく上で必須の前提となります。
このため、役所と民間でそれぞれの立場を尊重しながら対等に情報を共有し意見を交換する「対話」が必要なのです。
ここは安全な場だという宣言
とはいえ、自治体職員と民間事業者が胸襟を開き、心理的安全性を確保された関係性のもとで「対話」することは大変難しいことです。
自治体職員は外部の民間事業者に対して胸襟を開いて詳らかに話すということには抵抗感がありますし、民間事業者の側でも「お役所から仕事をもらう」といった独特の上下関係(本来は対等なはずなのですが)意識のもとで、言いたいことを言う、聴きたいことを聴くという関係を構築することが難しい現状があります。
そこで前回私が提案したのが民間事業者からの提案による「勉強会」というスタイルです。
互いに胸襟を開き、先入観を持たずに相手の言葉に耳を傾ける「対話」は、参加者の間に「ここでは何を話してもいい」「何を質問してもいい」という心理的安全性がグラウンドルールとして存在していなければいけません。
しかし、自治体職員が民間事業者と接する機会は基本的に「商談」と認識されることが多く、本来は「ここから商談ですよ」という仕切りを入れるまではフランクな、自由闊達な意見交換で構わないはずなのですが、いざ直接会うとなると発注者、受注者の立場を超えることができず、相互に理解、共感を深めるという緩い関係性を排除した、公平、平等、透明性といった原理原則に支配される厳格な関係性、距離感となることが多いのが現実です。
そこで、「今日は商談ではありません」「あくまでも私たち民間事業者が行政の現状、課題を理解するための勉強会です」「ここでの発言はお互いにすべてこの場限りのもので、将来の商談に影響を与え、責任を生じさせるものではありません」と宣言し、参加者の心理的安全性を事前に担保してあげることが有効なのです。
心理的安全性を確保するために
では、自治体職員の心理的安全性を担保するために「勉強会」の中で民間事業者が気を付けなければいけないことは何でしょうか。
我々自治体職員が民間事業者と接するうえで常に気にしているのは「特別扱いしない」「まだ決まっていないことを話さない」「ビジネスへの期待に対する言質をとらせない」というあたりです。
逆に言うと民間側から「私たちだけ特別に」「ここだけの話をしてください」というのはご法度で、勉強会の開催、資料の提供、面談のアポイントなどのすべてにおいて、何か依頼するときにはほかの誰から依頼されても対応できる範囲のことしか求めないことを心掛け、また同業者にひけらかしたりしないようにしてください。
また、自治体職員は自分が個人として話したことを組織の意見ととられることを嫌いますので、何か見解を尋ねるときは公式見解としてすでに公表されているものを尋ね、それで物足りない場合は「あくまで個人的な意見で結構です」と前置きをして可能な範囲で掘り下げてみる、という程度がいいでしょう。
民間側のスタンスとしても「次のビジネスにつなげよう」「あわよくば次年度の予算獲得につなげよう」と商売根性をギラつかせるのではなく、まずはお近づきになって、そのうちフランクに世間話ができる関係を構築する、くらいを目標にする程度がいいと思います。
公務員は民間の「ビジネスパートナーになりたい」という臭いには敏感で可能な限りその臭いのする場所を避けたがりますが、それは下手をすると業者、業界との癒着を疑われ、自分の公務員としての資質を内外からとやかく言われかねないとの懸念からの防衛本能だとご理解ください。
将来のインフラとしての「対話」
そんな悠長なスタンスで「勉強会」をやって、それが次のビジネスにつながるのかという方もおられることでしょうが、結局のところ「急がば回れ」。
私自身、財政課だけでなく事業を担当する職場にも在籍し、民間事業者の皆さんとのおつきあいも多々ありましたが、振り返ってみると契約を締結して発注者の立場で関係性を持った方々の何倍もの出会いがあり、「対話」がありました。
面白いのは、直接自分の担当する仕事ではないことを話題提供してくれて意見交換した方のほうが人事異動や担当業務の変更などでも縁が切れず、何かあったときに知恵袋になってくれる方が多かったという事実です。
たくさんの民間事業者さん、NPO、教育機関等の方々とお付き合いしてきましたが、その方と出会った職場を離れ、担当が変わった今も情報交換は続き、役所の外の空気を吸うのに役に立っています。
民間事業者の側から見ても、私の現在の担当業務に限らず、あるいは福岡市役所というという特定の自治体に限らず、国や自治体界隈で起こっている事柄についての概略の解説やその詳細をどこに問い合わせたらよいのかということを気軽に尋ねられることが多く、そういう意味でお互いに現在の業務領域を超えた情報共有をフランクに行いうる私個人の財産になっています。
「対話」で培うことができるのは役所の中と外をフランクな関係性で連結するパイプのようなものです。
このパイプを、将来いつか使うかもしれないインフラとして多方面に持つことが、地方自治体の職員にとっても、民間事業者にとっても、企画構想力や実現力の向上に直結する投資になると思います。
今村 寛(福岡市職員)
財政課長時代に培った知見を軸に出張財政出前講座を全国で展開し約10年間で220回を数える傍ら、市職員有志によるオフサイトミーティング「明日晴れるかな」を主宰。「対立を対話で乗り越える」を合言葉に、職場や立場を離れた自由な対話の場づくりを進めている。著書/ 『自治体の“台所”事情~“財政が厳しい”ってどういうこと? 』(ぎょうせい),『「対話」で変える公務員の仕事~ 自治体職員の「対話力」が未来を拓く』( 公職研)。
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