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どんな予算であれば計上されるのか
第4話は「誰が予算を決めているのか」でしたが、今回から数回にわたり「予算が計上されるために必要な条件」についてお話しします。
自治体は市民生活を支えるために福祉、教育、まちづくり、公共施設の維持管理等、幅広い行政分野を所管しており、これらの多岐にわたる分野のそれぞれで市民からの様々な要請、期待に応えなければなりません。
しかしながら財源は限られており、すべてのニーズに対応することが難しいため、取り組む施策、事業の内容を吟味し、優先順位をつけて取捨選択しています。
この取捨選択の過程が予算編成なのですが、ではどのような施策事業が優先順位の高いものとして選ばれるのでしょうか。
求められているという事実の立証
当たり前の話ですが、予算計上の第一条件は「必要性」です。市民が求めている、国や県が求めている、法が求めている、など自治体がその事務事業を実施することが「求められている」ことは必須不可欠の条件です。
しかし、これだと優劣が付きませんので、「緊急性」「重要性」のフィルターでその優先順位をつけていくことになります。従って、予算計上にあたっては予算を要求する側で「必要性」「緊急性」「重要性」を立証する事実を収集し提示する必要があります。
特に「緊急性」は「必要性」を補完する要素として極めて親和性が高いため、必要性と緊急性は同時に論点整理されることがほとんどで、市民からの要望や国、関係機関からの要請に基づく事務事業の場合、「必要性」の立証として誰がどのような要請(その多くは課題の解決)を行っているかを明らかにし、その要請を放置することでどのような問題が発生(課題放置による事態の悪化等)するか、についても立証することが必要です。
ここでは、事実行為として課題解決の要請行動そのものが行われているかどうかが問題ではなく、解決すべき課題そのものの存在、及びその解決を求める声の存在を立証できれば構いません。
なお、「緊急性」に重きを置くと、直ちに取り組む必要がないが将来の備えとして必要なものが抜け落ちるのではないかという懸念もありますが、「計画的に備えておくこと」自体に一定の緊急性があり、これを怠るとどのようなリスクがあるか、ということを立証していくことになります。
重要性は何で測る
「重要性」は価値観の指標になり、多岐にわたる行政分野で抱えている様々な課題の解決について、何を大事だと考えるかを一つのモノサシで測ることは難しく、単年度の予算編成で議論し決着することは困難です。
そこで私たちは、自治体の目指すべき将来像をあらかじめ描き、その将来像の実現に向かって計画的、戦略的に施策事業を実施していくことにしています。
これが基本計画あるいは総合計画、マスタープランと呼ばれるものです。
策定に数年の期間をかけ、市民や有識者からの意見を反映し、議会で議論し、議決を経ることで今後10年程度の期間に何を優先して取り組んでいくのかについて、価値観の統一を図っています。
多くの自治体ではこのマスタープランの実施のために3~5か年単位で施策事業の計画的な重点化を図る「実施計画」と呼ばれるプランを策定し、そこで特定の施策事業を計画期間中重点化することを位置づけ、この位置づけをもとに各年度の予算編成で反映しています。
また、こういった計画上の重点化とは別に、首長の公約や議員要望など、有権者の声を集約した重点化というルートもあり、実施計画での優先順位付けに加えて各年度の予算編成の中で調整していくことになります。
風が吹けば桶屋は儲かるのか
「必要性」「緊急性」「重要性」はあくまでも、その施策事業で解決しようとする課題そのものが具備すべき条件ですが、自治体の行う施策事業はその課題を解決するための方策として講じられるものですので、その方策が課題解決に資するかどうかという「実効性」が問われます。
問われるのは課題とその解決方策の論理的因果関係、ロジックモデルです。
「風が吹けば桶屋が儲かる」というロジックモデルを皆さんご存じと思いますが、「風が吹く」「土ぼこりがたって目に入り盲人が増える」「盲人は三味線で生計を立てようとするから、三味線の胴を張る猫の皮の需要が増える」「猫が減るとねずみが増え、ネズミが桶をかじるから桶屋がもうかって喜ぶ」という論理展開に論理的整合性があり、その連続性を侵すものがないかどうかをチェックしていくことになります。
しかしながら、論理展開としてはその方策が課題解決に資するとしても、その課題の大きさに比してその取り組みが与える効果が微小であれば、膨大な物量を投入しなければ課題の解決に至らないということになります。
そこで必要なのが「効率性」です。
費用対効果という言葉をよく使いますが、取り組みに必要な投入資源とそこから得られる課題解決の効果(量または質の改善)を比較し、そのバランスを見ることになります。
国等が行う大規模な公共事業であればB/Cが1超えることを事業採択の基準としていますが、一般的に費用対効果は政策決定に必要な明確な基準はなく、感覚的にあまりひどい場合には事業手法を再検討し、より効果の高い手法を選択していく、といった程度の運用がなされています。
役者はそろっているか
最後にチェックすべきは「実現可能性」です。
市民から解決の声が上がる「必要性」「緊急性」「重要性」の高い社会課題の解決に向け、風が吹けば桶屋が儲かるロジックをきちんと整理し、費用対効果も十分見込める施策が立案されたとしても、その施策を誰が行うのか、実施主体が存在するのかというのは重要な要素です。
よく、予算査定の現場で「これは民間で実施してもらう」「これはNPO等に
協力してもらう」という話をよく聞きますが、財政課としては「そんなことやってくれる民間企業、NPOっているんですか?」「その方々の合意は取れているんですか」という確認を必ずしています。
これは、別に契約をして来いという話ではなく「こんな取り組みを考えているけど民間企業(NPO)で協力できるとしたらどのあたりか」という官民の連携、役割分担の基本的な部分が絵空事であれば、せっかく立案した素晴らしい企画も絵に描いた餅になってしまうからなのです。
逆に「それはすべて役所でやるべきことですか」と行政の行うべき範疇について議論することもあります。
やるべきことをすべて役所でやってしまうことは、事業の全部を役所でマネジメントできる利点はありますが、関心層への情報発信や経済メリットを考慮したコスト削減や収益向上など、役所の苦手な分野まで抱え込んでしまい、事業の効果や効率を損なうことがあります。
社会の課題を解決するのは役所だけの責任ではなく、官民それぞれが得意な分野で協力し合うことで事業の成功確率は確実に上がります。
課題の把握分析からその解決手法の立案、実施までを民間事業者やNPOなど役所の外部セクターと一緒に考えることができているか、というのは限られた財源を可能な限り有効に配分する自治体の予算編成では必須のチェック項目となっています。
今村 寛(福岡市職員)
財政課長時代に培った知見を軸に出張財政出前講座を全国で展開し約10年間で220回を数える傍ら、市職員有志によるオフサイトミーティング「明日晴れるかな」を主宰。「対立を対話で乗り越える」を合言葉に、職場や立場を離れた自由な対話の場づくりを進めている。著書/ 『自治体の“台所”事情~“財政が厳しい”ってどういうこと? 』(ぎょうせい),『「対話」で変える公務員の仕事~ 自治体職員の「対話力」が未来を拓く』( 公職研)。
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