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EBPMというけれど
前回に続き、「予算が計上されるために必要な条件」について。
今回は、前回お話しした「実効性」についてもう少し詳しく見ていきます。
最近はやりのEBPM、皆さんもご存じですよね。
EBPMとは(Evidence・Based・Policy・Making/エビデンス・ベースド・ポリシー・メイキング)の略称で、日本語では「証拠に基づく政策立案」と定義されています。
政策立案にあたっては
①統計データに基づき科学的に分析された課題認識に基づき立案されるべきこと
②課題解決の手法検討においてはその課題の解決と採用しようとする手法との間に相当の因果関係を持つロジックモデルを構築すべきこと
③分析統計の手法を用いて当該政策がもたらす社会的インパクトをあらかじめ推計し、その効果期待によって政策への投入資源や手法を選択すべきこと
④実際に政策が実施された後にその効果を測定し、課題解決に資する取り組みであったかどうか、手法構築時のロジックモデル及び社会的インパクトの推計について検証を行い、すでに選択した政策実現の手法について必要な修正を講じていくべきこと
これらがEBPM推奨の概念です。
しかし、そうは言っても、政策が生身の人間、実際の社会を相手に行う壮大な社会実験である以上、実験室の中で行う実験や巨大な電子計算機による演算とは異なり、どこまで理想を追い求めたとしても机上の空論にとどまってしまうだろうというのが私の正直な感想です。
誤りやすいデータ至上主義
もちろん、これまで国や地方自治体が行ってきた「政策」においてあまりにもデータやロジックモデルがおろそかにされてきた結果、その効果測定も手法検証も不十分であったということは事実で、これをあらかじめ検討することで検証可能な仕組みにするということには意味があると思います。
しかし、EBPMをエビデンス=証拠に基づく政策立案と文字通り読み、これを証拠=データだと偏った理解のまま進めると、実験室での純粋データではないことや採用できる測定方法に限界があること、社会の状態をすべてデータでとらえて表現することが困難なことなどから、データの信ぴょう性や証拠としての能力に疑義を抱く人も多く、一方で、測定データに基づく目標を掲げた場合に成果未達の咎めを回避するために目標達成の基準を恣意的に引き下げるということも起こりかねないなど、データだけに頼ることで判断を誤るという側面もあります。
最近は国の補助金、交付金を受ける場合にKPI(重要業績評価指標)を掲げることが当たり前になってきましたが、何を指標としておくかによっては事業の成果そのものではなくKPIとして置いた指標の達成に一喜一憂してしまうような状況もあり、データ至上主義、EBPM礼賛の風潮そのものも眉唾もののように感じるときがあります。
大事なのはロジックモデル
むしろ、私が重視したいのはロジックモデルという話を前回しました。
政策の実現手段についての論理展開です。
課題解決の手段として採用する方法が、どうして課題解決の手段たりうるのか、を論理的に因果関係として説明できることが一番大事で、それが今最も政策立案の議論で欠けていることのように思っています。
EBPMとは「こうやればこうなる」という因果関係を政策の実現手法立案の根拠として用いることであって、データはその過程で現状認識や試算、推計に基づく効果測定が行われる際に用いられるにすぎないと私は理解しています。
大事なのは、なぜ風が吹けば桶屋が儲かるのか。「風が吹く」「砂埃が舞う」「砂埃が目に入って盲人が増える」「盲人は三味線で生計を立てる」「三味線の胴を張る猫の皮の需要が増える」「猫が減るとネズミが増える」「ネズミが桶をかじる」「桶がたくさん売れて儲かる」
この因果関係に矛盾や無理がなく、手法と課題解決の間に相当な因果関係があることを多くの人が確からしいと感じることだと思うのです。
バラマキは社会の何を変えるのか
バラマキと呼ばれる市民への現金給付施策で考えてみてください。
市民に現金を給付することは政策の実現手法であって、政策が実現する社会の姿を描いたものではありません。
政策立案時に実現したい未来、ありたい姿を提示し、その実現に向けて適切な手法を提案する。あらかじめこれらのことが示され、議論され、多くの人が納得しておけば、政策を正しく評価することができます。政策は未来のありたい姿を実現することが目的です。
実現しようとしている社会の姿に対してその給付がどのように影響を与えるのか。その影響は給付の目的、期待する効果と明らかな因果関係を持つのか。給付によって解決しようとしていた課題はどの程度解決するのか。その解決の程度や確からしさに比して、その給付に必要な予算額は適切か。政策を立案し実施する者が自らこのロジックモデル、論理展開を公言し、課題解決の道筋を市民に約束すれば、これを誠実に履行する必要が生じます。
そのため、予算措置を行う上では財政課と現場が、首長と議会が、この論理展開をチェックし、質疑を行うことでロジックモデルの論理的整合と実現可能性を確認する必要があるのです。
公務員も議会も効果測定に疎い
ところが「風が吹けば桶屋が儲かる」と言っていたけれど結局桶屋は儲かったのか、この確認がなかなか行われていないのが現状です。
なぜなら、多くの事業は新規で着手する施策事業の目的や具体的な成果、そして目的と成果との間にあるロジックモデルについて、もともと着手する段階で誰も確認していないからです。
始まる前に確認していなければ、それがうまくいったかどうかを検証することもできず、当然評価もできません。
評価ができなければ施策事業を実施した現場やこれを指揮した首長の評価もできませんし、今後同趣旨の施策事業を実施する際には前例が踏襲されるだけで改善がなされないという悪循環も生じます。
儲からなかったときに原因を検証するためには、風が吹くことと桶屋が儲かることの因果関係をロジックモデルとして事前に共有し、その各過程が想定通り原因と結果の関係としてつながったのかを確認できるようにしておかなければならず、その確認をどの測定指標で行うか、といったことも事前に決めておかなければなりません。
それらを客観的に明らかにすることは一義的には政策提案者の務めであり、現場と財政課が予算編成過程で議論すべきものです。
しかし、その議論が十分尽くされず客観性、信憑性に乏しいまま議案上程されてしまった場合は、その施策事業が提案された段階で、野党やマスコミがしっかりと確認しておく必要があると思うのです。
これから始まる全国の自治体での当初予算記者発表と議会審査の中で、どれだけこのことが議論され、事後に検証するための楔を打つことができるか。
逆に言えば、効果検証の仕組みを内在しておけばその拡大や縮小の議論で優位に立てるわけです。
いずれ来る財政危機の中で一度始めた事業が止められないという負の連鎖を断ち切る際に、あるいは効果があると手ごたえのあった事業を拡大、継続したいときに、この最初の楔があるかないかでまったく違う議論になることを覚えておいてほしいと思います。
今村 寛(福岡市職員)
財政課長時代に培った知見を軸に出張財政出前講座を全国で展開し約10年間で220回を数える傍ら、市職員有志によるオフサイトミーティング「明日晴れるかな」を主宰。「対立を対話で乗り越える」を合言葉に、職場や立場を離れた自由な対話の場づくりを進めている。著書/ 『自治体の“台所”事情~“財政が厳しい”ってどういうこと? 』(ぎょうせい),『「対話」で変える公務員の仕事~ 自治体職員の「対話力」が未来を拓く』( 公職研)。
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