自治体のICT活用とは?活用分野とツールの導入提案が通らない理由を解説
自治体におけるICT活用は、近年さまざまな分野で進んでおり、都道府県・市役所・町村役場の業務や住民サービスのあり方にも変化が見られます。一方で、民間企業がICTツールを提案しても、必ずしも導入につながるとは限りません。
その背景には、人口減少や財政制約といった構造的な要因に加え、自治体特有の組織構造や予算制度、施策との関係といった前提があります。これらを踏まえずに提案を行った場合、評価されても検討が進まない、あるいは実証実験にとどまるといった状況が生じることがあります。
本記事では、自治体がICTを活用する背景や活用分野、具体的な事例を整理するとともに、提案が上手く進まない理由やPoC止まりとなる構造について解説します。自治体向けにICT事業の展開を検討している方に向けて、前提となる知識を整理します。
目次
自治体がICTを活用する背景
自治体におけるICT活用は、行政事務の効率化はもちろん、行政サービスを持続可能にするためとしても進められています。その背景には、人口構造の変化、国の政策、財政制約といった大きく以下3つの要因があります。
- 人口減少と労働力不足による現場負担の増大
- 国の政策によるICT・DX推進の加速
- 行政サービス維持と財政効率化の要請
それぞれについて、詳しく解説していきます。
人口減少と労働力不足による現場負担の増大
まず、人口減少と高齢化の進行により、自治体では職員の確保が難しくなっています。一方で、介護・医療・子育て支援など、行政が取り組む社会課題は多岐にわたり、職員一人あたりの業務負担は拡大しています。
従来の人手に依存した業務運営では対応が難しくなっており、ICTによる効率化が必要とされています。
国の政策によるICT・DX推進の加速
次に、国の政策として自治体DXが推進されています。総務省の「自治体DX推進計画」では、業務の標準化やクラウド化が求められており、基幹システムの標準仕様への移行も進められています。また、デジタル田園都市国家構想により、地域課題の解決に向けたICT活用が後押しされています。これらは各自治体の任意ではなく、政策に基づく取り組みです。
行政サービス維持と財政効率化の要請
さらに、財政面の制約もICT活用を後押ししています。限られた財源の中で行政サービスを維持するためには、業務の効率化が不可欠です。オンライン申請や業務の自動化などにより、コスト削減と住民サービスの両立が図られています。
このように、自治体にとってICT活用は「選択肢」ではなく「前提」となっています。これを踏まえると、提案においても制度や業務環境を前提とした整理が求められます。
自治体でのICT活用の状況
自治体におけるICT活用を詳しく見るといくつかの領域に分けることができます。それぞれで導入主体や目的が異なるため、同じICTであっても自治体の関与の在り方が異なるため、導入に至る流れは一様ではありません。
ここでは、主な以下3つの活用領域を整理します。
- 庁内業務の効率化
- 住民サービスの高度化・効率化
- 地域課題解決に向けたICT活用
庁内業務の効率化
まず、庁内業務の効率化を目的としたICT活用があります。電子決裁や文書管理システムの導入により、紙中心の業務からの転換が進んでいます。
また、チャットツールの活用による職員間の連絡の迅速化や、RPAによる定型業務の自動化など、職員の負担軽減を目的とした取り組みも見られます。
これらは主に庁内で利用されるもので、情報政策部門などが中心となって導入されるケースが一般的です。
住民サービスの高度化・効率化
次に、住民サービスの高度化・効率化に関するICT活用です。オンライン申請の導入により、来庁せずに手続きが完結する仕組みが整備されつつあります。また、健康増進や介護分野におけるデータ活用、教育分野におけるタブレット端末の配備など、サービス提供の方法も変化しています。これらは住民が利用する仕組みですが、各分野の担当部局が主体となって導入を進める点に特徴があります。
地域課題解決に向けたICT活用
さらに、地域課題の解決を目的としたICT活用も広がっています。防災分野では災害情報の配信やセンサーの活用、観光分野では多言語対応やデータ分析、交通分野ではMaaSなどの取り組みが進められています。
産業振興においても、データ活用やスマート農業などの導入が見られます。
これらは自治体が直接利用するというよりも、自治体が実証実験を実施したり、導入に必要な費用を補助する等して、地域全体に実装するためのされることが多く、民間企業との連携が前提となる場合が多い領域です。
自治体でのICT活用事例
前述のとおり、自治体におけるICT活用は様々な分野・手法で行われています。
ここでは、以下3つの事例を紹介します。
- 庁内業務の効率化
- 住民サービスの高度化・効率化
- 地域課題解決に向けたICT活用
庁内業務の効率化に関する事例
庁内業務では、電子決裁やRPAの導入など、職員の業務負担軽減を目的としたICT活用が進められています。
例えば、新潟県長岡市では、RPAおよびAI-OCRを活用し、内部業務の効率化を進めています。同市では、平成30年度にトライアルを開始し、段階的に導入を拡大しています。その結果、令和4年度時点で100業務に適用され、導入前の作業時間約23,980時間に対し、導入後は約5,377時間となり、約18,603時間の削減効果が見込まれています。
また、導入にあたっては市役所全体での利用を前提とし、職員向けの研修を段階的に実施することで、各業務担当者が自らシナリオを作成できる体制を整備しています。導入対象業務についても、実務に精通した職員が選定することで、効果的な活用が図られています。
これにより、データ入力や照合といった定型業務の負担が軽減され、削減された時間は窓口対応や企画立案などの業務に振り向けられています。加えて、入力作業の自動化により確認作業の負担も軽減され、業務全体の精度向上にもつながっています。
参照元:https://www.soumu.go.jp/denshijiti/digital_transformation_portal/case/r07_dx3_18.html
住民サービスの高度化・効率化に関する事例
住民サービスの分野では、ICTを活用して窓口手続の簡素化や説明負担の軽減を図る取り組みが進められています。特に、多数の窓口業務を担う市役所・町村役場では、手続の効率化と住民の理解促進の両立が求められています。
例えば福岡県北九州市では、マイナンバーカードを活用した「書かない窓口」を導入しています。この仕組みでは、申請者の氏名や住所などの基本情報をマイナンバーカードのICチップから読み取り、申請書に自動で反映することで、手書きによる入力を不要としています。
また、窓口では職員と住民が対話形式で質問に回答しながら手続きを進めることで、利用可能な制度の一覧が提示される仕組みとなっています。これにより、住民は自身が利用できる制度を整理して把握できるようになり、窓口での説明内容も手元に残る形となっています。
導入前は、障害者手帳の交付手続において、一人あたり45分から1時間程度の対応時間が必要とされていましたが、本システムの導入により平均約30分程度に短縮されています。また、従来は複数の申請書に同じ内容を繰り返し記入する必要がありましたが、その負担も軽減されています。
さらに、制度の種類が多く複雑であることから発生していた案内漏れや説明のばらつきについても、手続ガイド機能の導入により一定の水準で対応できるようになり、職員の心理的負担の軽減にもつながっています。
参照元:https://www.soumu.go.jp/denshijiti/digital_transformation_portal/case/r07_dx3_17.html
地域課題解決に関する事例
地域課題の解決を目的としたICT活用では、防災や交通、産業振興など幅広い分野で取り組みが進められています。
例えば、長野県松本市では、AIを活用したオンデマンド交通サービスが行われています。この取り組みでは、専用アプリやLINE、電話などから予約を受け付け、需要に応じて運行ルートを柔軟に設定する仕組みが採用されています。
従来の路線バスでは対応が難しいエリアにおいても、利用者の予約に応じて運行することで、いわゆる「ラストワンマイル」の移動手段を補完する役割を担っています。また、鉄道や既存の交通手段との接続も考慮されており、地域全体の交通ネットワークの中で位置づけられている点に特徴があります。
参照元:https://www.city.matsumoto.nagano.jp/soshiki/222/116940.html
自治体へのICTツール提案が上手くいかない理由(導入における課題)
前述のとおり、自治体ではICT活用がさまざまな分野で進められていますが、民間企業によるICTツールの提案がそのまま導入につながるケースは多くありません。その背景には、自治体特有の組織構造や意思決定の仕組みがあります。
ここでは、ICTツールの提案が上手くいかない理由として、以下の3つを解説します。
- 自治体組織についての理解不足
- 自治体施策に関する理解不足
- 自治体予算についての理解不足
自治体組織についての理解不足
都道府県・市区町村といった自治体の行政組織は、事業を担当する課、システムを所管する課、DXなど行政改革を担当する課、予算を管理する財政課など、複数の部課所によって構成されています。
ICTに関する取り組みはこれら複数の部局にまたがることが多く、現場の担当者に評価されたとしても、他部局との調整が上手くいかなければ導入には至りません。
民間企業のように単一の意思決定で進む構造とは異なる点が影響しています。
自治体施策に対する理解不足
自治体の事業は、中長期的な計画・ビジョンに基づき実施されています。そのため、ICTツールが個別のツールとして優れていたとしても、どの政策課題に対応するのかが明確でなければ、検討の対象になりにくい場合があります。
そのため、提案を進めるには、自治体の計画や政策目標を達成するために必要なICTツールであることを説明することが求められ、その前提として自治体施策の理解は必須となります。
自治体予算についての理解不足
自治体の予算は年度単位で編成されます。予算要求、査定、議会での議決という手続きを経て執行されます。
あらかじめ予算化されていない事業は実施が難しく、提案のタイミングが合わない場合、例え内容が優れていても、自治体側にとっては検討を進めようがない提案になってしまうことがあります。
そのため、自治体に対するニーズのヒアリングと提案活動は、適切な時期に行うことが重要です。
ICT提案をPoC止まりにしないための取組み
自治体へのICT提案は、評価されながらも実証実験(PoC)で止まるケースが多く見られます。これは個別の提案内容の問題ではなく、制度や意思決定の構造によって生じるものです。
ここでは、ICTツールの提案を事業化につなげるために抑えるべき、以下の視点について解説します。
- 実証実験と事業化(本格導入)の意思決定
- 実証実験窓口と事業担当課の関係
- 予算編成時期と提案時期
実証実験と事業化(本格導入)は別の意思決定
まず、PoCと本格導入は別の意思決定である点が挙げられます。
PoCは短期間かつ限定的な範囲で実施される検証であり、また費用負担も事業者負担で実施する場合が一般的です。
一方で、本格導入には継続的な予算確保や全庁的な調整が必要となります。そのため、PoCで一定の効果が確認された場合でも、そのまま導入に進むとは限りません。
PoC後の事業化を目標とする場合は、自治体の行政計画、既存予算、調整を要する関係部課所を把握した上でPoCを設計し、PoCの結果から自治体が「動きたくなる」状況を作り出すことが重要です。
実証窓口と担当課の関係
自治体のICTは、庁内業務、住民サービス、地域課題といった領域ごとに関係する部局が異なります。
例えば、実証実験は行政改革担当課が窓口となり実証実験で一定の効果が確認できた場合でも、本格導入時には各事業担当課の判断が必要となり、細かい事務上のハードルがクリアできずに話が頓挫してしまう場合なども考えられます。
そのため、本格導入に際して了解を得るべき部課所を漏れなく、間違わないことが重要です。
予算編成時期と提案時期
自治体の事業は年度ごとに編成され、新年度予算は当年度の途中から検討が始まります。そのため、例えば、すでに予算の内容が確定している時期に新たな取り組みを提案した場合、例え提案内容が優れていても次の検討に移りにくいのが実情です。
したがって、実証実験の期間と結果報告時期は、自治体側が予算化の検討を行う時期やその前までに行うなどの工夫が必要です。
提案の整理方法
自治体は「優れたICTツール」を導入することが目的ではなく、社会課題の解決やそのために行政組織を効率化することが目的です。
そのため、機能や性能の説明だけではなく、自治体が取組む各施策にどのように組み込まれるのか、どのように寄与するのかを訴求する必要があります。
この整理を十分に行わず、サービス説明に終始してしまうと、具体的な検討に進まない場合があります。
まとめ
自治体におけるICT活用は、人口減少や職員不足、国のDX推進政策、財政制約など様々な背景から進められており、今後の「行政運営の前提」とも言えます。ICTの活用は、庁内業務の効率化、住民サービスの高度化、地域課題の解決といった複数の領域に広がっています。
一方で、民間企業によるICTツールの提案は、機能や性能のみでは導入に至らないケースが見られます。自治体ICT市場は今後も一定の需要が期待できる一方で、制度や意思決定の構造を踏まえた対応が求められる領域です。活用分野や事例を理解することに加え、組織・施策・予算といった前提条件を整理することが重要となります。
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