自治体の防災対策案件とは?民間企業が受注するための基礎知識を解説
自治体の防災対策は、災害対策基本法に基づく国・都道府県・市町村それぞれの役割分担のもとで、毎年一定量の案件が発生し続けている分野です。
しかし、「防災関連の自治体案件」といっても、実際にはハード系の工事・物品調達から、ソフト系のコンサルティング・デジタル系のシステム構築まで多様な業務が存在します。そのため、自治体の防災対策案件が自社にマッチするのかどうか、わからない場合も多いのではないでしょうか。
そこでこの記事では、自治体の防災対策の法的根拠・発注される業務の種類・案件が発生するタイミング・参入に向けた注意点を体系的に解説します。
目次
自治体の防災対策とは?法的根拠と国・都道府県・市町村の役割分担
自治体が防災対策に取り組む法的根拠と、その役割を理解することは、防災関連案件への参入を検討するうえでの出発点となります。案件の背景と発注主体を把握することで、より的確な参入判断が可能になります。
ここでは、以下の2点について解説します。
- 防災対策の法的根拠(災害対策基本法)
- 国・都道府県・市町村それぞれの役割
防災対策の法的根拠(災害対策基本法)
自治体の防災対策の基本的な枠組みを定めているのが「災害対策基本法」(昭和36年制定)です。同法は、防災に関する国・地方公共団体・各種団体・住民の責務を規定し、防災計画の策定・防災訓練の実施・避難体制の整備といった義務を都道府県・市区町村に課しています。
また、近年は法改正が繰り返されており、2012年の改正では避難行動要支援者制度が創設、2021年の改正では個別避難計画の策定義務化が盛り込まれています。さらに、避難情報の体系見直し(警戒レベルの整理)なども行われました。
自治体はこれらの法改正に対応した計画の見直し・体制整備を継続的に行う必要があり、その実行に向けた外部支援の需要が繰り返し発生しています。
国・都道府県・市町村それぞれの役割
防災対策において、国は防災基本計画を策定し、大規模広域災害に対する総合的な対応体制を整備します。総務省・内閣府(防災担当)・国土交通省等が連携して政策立案・制度整備を行います。
都道府県は都道府県防災計画を策定し、広域的な応援・受援体制の整備、市町村への支援を担います。国の指針を受けながら、域内自治体の取り組みを支援する立場でもあります。
市町村は市町村防災計画・避難確保計画・個別避難計画等を策定し、住民に最も近い層で避難体制・防災訓練・備蓄の整備を行います。市町村が直接発注する防災関連案件は、民間企業にとって参入機会の多い層です。
自治体が民間企業に発注する防災関連業務の種類
防災関連の自治体案件は、ハード整備からソフト系コンサルティング・デジタル系まで幅が広く、参入できる企業の業種も多様です。
ここでは、防災関連の自治体案件を以下の3つに整理して解説します。
- ハード系業務の内容と特徴
- ソフト系業務の内容と特徴
- デジタル防災系業務の内容と特徴
ハード系業務(防災施設の整備・資機材の調達・工事)
ハード系の防災案件は、主に以下のような発注形態で行われます。
- 防災施設の整備:避難所となる施設の耐震補強・バリアフリー化・非常用電源設備の設置
- 防災資機材の調達:防災備蓄物資(食料・飲料水・毛布・簡易トイレ等)の購入・更新
- 工事・施工を中心とした発注:護岸・堤防・急傾斜地崩壊防止施設等の整備
工事に関する案件では、入札参加資格取得のために建設業許可や経営事項審査(経審)の受審が必要です。
物品納入の案件であれば、物品・役務関係の入札参加資格が求められます。
ソフト系業務(地域防災計画の策定・訓練の企画・ハザードマップ作成)
ソフト系の防災案件は、コンサルティング・調査等の業種区分で発注されます。主な業務は以下のとおりです。
- 地域防災計画・業務継続計画(BCP)の策定・改定支援
- 防災訓練の企画・運営支援
- ハザードマップ・避難計画の作成
- 防災に関する研修・啓発事業
これらの業務のうち、定例的な業務は一般競争入札や予定価格によっては見積合わせで発注されます。一方で、業務内容が高度な場合や、専門性を有する事業者の提案を踏まえて業務内容を決定すべき案件はプロポーザル方式で発注されることがあります。
いずれの発注・契約方式の場合も、防災・危機管理に関する専門知識と類似業務の実績が参加要件となる場合や、評価項目になる場合があります。
デジタル防災系業務(避難所管理システム・情報集約システムの構築・運用)
近年に案件として見られるのがデジタル防災系の業務です。具体的には以下のような案件があります。
- 避難所管理システムの構築・運用(在庫管理・避難者登録・施設状況の一元管理)
- 防災情報集約・発信システムの構築(Jアラートとの連携、住民向け通知システム)
- 防災DXに関するコンサルティング(デジタル技術を活用した防災体制の再設計)
ICT・システム開発・データ活用分野の企業にとって、参入可能性の高い領域です。また、入札案件だけではなく、DX・スマートシティ領域の実証事業等としてでも公募される例も見られます。
自治体の防災関連案件が発生するタイミングと背景
防災案件を継続的に受注するには、案件が発生するタイミングのパターンを把握することが重要です。発注の背景を理解することで、先手を打った提案活動が可能になります。
ここでは、以下の3点について解説します。
- 関連計画の改定サイクルと案件化の関係
- 国の政策・計画に連動した案件発生
- 大規模災害後の対策強化による案件発生
関連計画の改定サイクルと案件化の関係
自治体の防災関連案件が定期的に発生する最大の要因は、防災計画の改定サイクルです。多くの自治体では、地域防災計画を5年程度のサイクルで全面改定または一部改定しています。この改定作業を支援するコンサルティング・調査業務が、計画改定の前後に集中的に発注されます。
また、個別避難計画の策定義務化(2021年改正)・業務継続計画(BCP)の策定促進など、法改正に伴う新たな計画策定業務も継続的な発注源となっています。計画改定のサイクルは自治体ごとに異なるため、ターゲット自治体の計画策定状況を事前に確認することが有効です。
国の政策・計画に連動した案件発生
防災分野では、国の政策・計画が変わるたびに自治体での対応が求められ、それが案件化につながります。
例えば、国土強靱化計画(5か年加速化対策等)の策定・改定に連動して、各自治体でも地域計画の見直しや関連整備事業が発生します。デジタル防災の推進(防災DX)に関する政府方針が示されると、自治体でのシステム整備・更新案件が増える傾向があります。国の政策動向を定期的に把握しておくことが、案件発生の予測に役立ちます。
大規模災害後の対策強化による案件発生
実際の大規模災害が発生した後は、被災した自治体だけでなく、同様の災害リスクを抱える周辺・類似自治体でも対策強化の機運が高まります。
その結果、ハザードマップの更新・避難計画の見直し・防災訓練の実施・備蓄品の更新といった案件が一時的に増加する傾向があります。大規模水害・地震等の発生後は、防災関連案件の動向を注視することが有効です。
自治体防災案件の取組み事例
ここでは、防災案件の類型を3つ紹介します。
デジタル技術を活用した防災案件の事例
近年、ドローン・AI・IoTを活用した防災情報収集・共有システムの実証実験が各地で実施されています。例えば、ドローンを活用した被災状況の空撮・被害把握の迅速化、AIを活用した避難所の混雑状況の予測、センサーを活用した河川水位の自動モニタリングなどが挙げられます。
こうしたデジタル防災実証案件は、ICT企業が参入しやすい形態の一つです。実証から本格導入へのフェーズで受注機会が生まれるため、実証段階からの参加が有利に働きます。
官民連携で推進した防災案件の事例
多くの自治体では、民間事業者との「防災協定」(物資供給・施設提供・情報共有等)の締結が進んでいます。こうした協定は、委託料等の支払はなく無償対応が一般的ですが、自治体の防災担当者との継続的な接点を作り、有償の防災案件への参入に向けた関係構築につながります。
また、大規模小売店・ホテル・通信事業者・物流会社などは、こうした協定を基点として自治体の防災体制に組み込まれており、受注機会を得やすい立場を築いています。
計画策定・訓練支援案件の事例
全国各地で、地域防災計画の改定支援・タイムライン防災計画の作成支援・避難訓練の企画運営が外部委託されています。プロポーザル方式で発注される案件が多く、防災計画・危機管理分野の専門性を持つコンサルティング企業にとって参入機会が多い領域です。
自治体の担当者は計画策定の専門知識を持つとは限らないため、「行政の担当者が議会や住民に説明できる資料を作れる」能力が評価される傾向があります。
民間企業が自治体の防災案件に参入する際の注意点
防災分野の自治体案件には、業種や案件種別によって固有の参入要件と注意点があります。参入前にこれらを把握しておくことで、効率的な準備と営業活動が可能になります。
ここでは、以下の3点について解説します。
- 実績要件の確認
- 案件情報の収集と営業活動のタイミングの設計
- 実証実験・連携協定の効果的な活用
実績要件の有無
防災関連のコンサルティング・計画策定案件では、仕様書に「類似業務の実績○件以上」「防災・危機管理分野での業務経験○年以上」といった実績要件が設定されることがあります。自社の実績が要件を満たすかどうかを、入札公告・仕様書の確認時に必ず確認することが求められます。
ハード系(施設整備・資機材調達)の案件では、建設業許可や登録業種に応じた入札参加資格が求められます。業種要件と自社の登録状況を照合することが、基本的な参入判断のステップです。一方、デジタル系案件では防災分野の実績よりもシステム開発・情報セキュリティの実績が評価されることも多く、参入ハードルが比較的低い傾向があります。
案件情報の収集と営業活動のタイミングの設計
防災案件の多くは、計画改定サイクル・国の制度改正・災害発生のタイミングと連動して発生します。入札情報サービスや自治体の調達情報サイトを継続的に確認し、案件の発生パターンを把握することが参入の基礎となります。
また、計画改定が予定されている自治体への事前アプローチは、仕様書策定の段階から関与できる可能性があり、受注確率の向上につながります。自治体の予算サイクル(6〜8月の予算要求ヒアリング前後)に合わせた提案活動が効果的です。
実証実験・連携協定の効果的な活用
防災分野では、実証実験への参加や自治体との連携協定の締結が、受注実績とは別の参入ルートとして機能します。
実証実験は自治体の防災担当者との接点を作る機会であり、実証を通じた技術・サービスの検証が本格導入への布石となります。
連携協定は有償契約ではありませんが、防災対応における信頼関係の構築や、有償案件へのつなぎとして位置づけることができます。
実証実験・連携協定から受注実績へのつなぎを意識した戦略設計が、中長期の参入計画として有効です。
まとめ
自治体の防災対策案件は、ハード系・ソフト系・デジタル系と業務の幅が広く、建設・物品供給・コンサルティング・ICTとさまざまな分野の企業が参入できる市場です。
参入にあたっては、まず自社の事業領域に対応する業務分野を絞り込み、その分野における入札参加資格・実績要件・発注タイミングを把握することが出発点となります。実証実験や連携協定といった有償案件以外のアプローチも、参入戦略として有効に活用できます。
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