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PPPAメルマガご愛読の皆さん、お初にお目にかかります。
今日から不定期で寄稿させていただくことになりました、福岡市役所現役公務員(現在は福岡地区水道企業団に派遣中)の今村寛と申します。皆さん、よろしくお願いいたします。本日は、今回は「民間と自治体の組織文化の壁」について、ご紹介させていただきます。
役所の考えていることがわからない
読者の皆さんはいずれも民間企業の方で、公民連携に関心が高い方々だとお聞きしています。そんな皆さんに現役公務員の私が提供したいのが、表題にもある「お役所ムラ」の内情打ち明け話です。
役所と取引のある民間企業の皆さんから、よくこんな声が聞こえてきます。
- 優れた製品やサービスを紹介しても「予算がない」と言われてしまうが予算がないなんて筈はないのではないか
- この自治体は年度予算が5,000億円もあるのだから、その中の1%程度のシェアなら取れるだろう
- 自治体担当者に「予算感を教えてください」と尋ねたがどうしても教えてもらえない。それどころか冷たくあしらわれた。
- 補正予算をどうやって狙っていったら良いかわからない。
- 予算書を見たが目的別経費?性質別経費?なんのことだかわからない。
- 当初予算の予算書を見たが、自社の事業領域で確保されている予算が予算書のどの部分に書いてあるのかわからない。
- 月末まであと1週間。今月の売り上げ目標は必達だ。自治体から注文書をとってくるまで会社に帰ってくるな!!!
- 地方創生推進交付金やデジタル田園都市国家構想交付金をどのように狙っていったら良いかわからない。
いずれも、役所の中で「予算」というものがどのような位置づけにあり、誰がその内容、金額を決めているのか、どのくらい融通がきくのか、どうすれば事業実施にゴーサインが出るのか、といった財政や予算に関する情報がほとんど知られていないことによるものです。
私がこの寄稿を請け負ったわけ
私は2012~2015年度の4年間、福岡市の財政調整課長として当時1兆8千億円の予算を預かり、厳しい財政状況の中福岡市の台所を預かる大番頭の役目を仰せつかっておりました。
その際、限られた財源を有効に活用し効果的な施策事業を推進するため、政策推進と財政健全化を一体のものとして進める「ビルド&スクラップ型行財政改革」を手掛け、そこで始めた「財政出前講座」や「局の自律経営」といった取り組みが全国で注目されたことを契機に全国の自治体からお声がけをいただき、異動で財政調整課長の職を退いたあとも「出張財政出前講座」と銘打って北は北海道から南は沖縄まで全国各地に出講登壇し、自治体職員、地方議会議員、一般市民向けにわかりやすく財政を語る日々を送っています。(現在はコロナ禍のため活動休止中)
また、「自治体の“台所”事情~“財政が厳しい”ってどういうこと?」(ぎょうせい)、「『対話』で変える公務員の仕事~自治体職員の『対話力』が未来を拓く」(公職研)の2冊の単著を出版し、地方自治体の予算編成の仕組みや行財政改革の意義、役所組織内部や市民、議会等とのコミュニケーション、特に「対話」の重要性やその手法について著しています。
組織文化の壁を超えるには
先ほど例として掲げた民間企業の皆さんのお悩みは、お役所ムラの中と外を隔てる高い壁の仕業です。
この高い壁は私たち「中の人」が外に出ていく、外を見渡すということも阻んでおり、役所の中にいると外側にいる皆さんがそういうことでお悩みだということも実は理解できていない、そのくらいコミュニケーションが不足しているという現状をひしひしと感じます。
近年、自治体に求められる役割や機能が変化するなかで、自治体の外側にある組織や人材の力を借り、協力を得ながら物事を進めるという場面も増えました。
民間企業やNPO、地域団体など、頼ることのできるパートナーはたくさんいますが、互いの協力関係を構築するうえで必要な情報共有や意思疎通がうまくいかないということもしばしば見受けられます。
うまくいかない原因の多くは組織文化の壁。自治体組織が長年育んできた独特の文化が外部ではうまく受け入れられないことや、自治体組織の外側では当然のこととされている常識が自治体職員に通じないということがよくあります。
自治体職員がなぜ手続きや書面にこだわるのか、なぜ自治体では年度をまたいだ会計処理ができないのか、民間人は時間を使うことそのものがコストだと考えていることが自治体職員はなぜ理解できないのか、など、互いの生きている環境の違い、立脚する法理や社会のルールの違いがそれぞれの組織文化、常識の違いとなってあらわれています。
違う世界に生きる者同士が互いに自分の住んでいない世界のことを知り、その違いの根本を理解しあうために、どのような手立てがあるでしょうか。
まずは現状認識と課題の共有から
私が役所の中で経験を通じて培った知見を活かし、ぜひ読者の皆さんの「役所の考えていることがわからない!」というお悩みにアドバイスをしてほしいという趣旨で寄稿の依頼を承りました。
自治体の予算は総額で言えば数百~数千億円という途方もない金額ですが、その大半は義務的経費と呼ばれる硬直的な経費で新たな施策や事業に充てられる財源はごくわずかです。
近年の少子高齢化、人口減少により、納税者人口の減少と社会保障費の増大による収支バランスの悪化も顕著で、新規施策に充てることができる裁量がきく財源は年々減少し、新規施策の立案はおろか、既存事業の継続にも暗雲が立ち込める、いわゆる「厳しい財政状況」にどの自治体も置かれています。
そのようななかで、多様化する住民ニーズに耳を傾け、その中から必要な施策事業に財源を効果的に配分し、市民福祉の向上を図る自治体財政の運営はまさに綱渡り。そこには役所の外からはなかなか見えにくい苦労や工夫があります。
自治体財政運営に長く携わった私が思うのは、自治財政が抱える課題について、財政課以外の職員はもちろん、市民、議会とも広く共有し、なぜお金が足りないのか、どこに使われているのか、何のために財政健全化に取り組まなければならないのか、そのためにどういった取り組みが必要なのかといったことを一つ一つ理解と共感を広げていかなければならないと感じています。
そのうえで、財政課と現場、行政と市民・議会、役所と民間、といった異なる立場、セクター同士が相互に理解し、同じ方向を向いて新たなチャレンジに取り組むことが望ましいと考え、今回のメルマガ寄稿も含め、いろんなところでお役所ムラの「中の人」として、内側から外側への情報発信に取り組んでいるところです。
皆さんが聞きたいことは何ですか?
私は財政調整課長だった時代だけでなく、その前後でも民間企業や大学、NPOの皆さんと一緒に仕事をし、仕事以外のおつきあいとして立場を超えたざっくばらんな対話も含め、いろんな方との接点の中で、お役所ムラの内と外の温度差、空気の違いを肌で感じてきました。
このコラムでは、そういった温度差、空気の違いに焦点を当て、特に私の得意分野である「財政」「予算」という話題を中心に皆さんの疑問にお答えし、読者の皆さんのモヤモヤを晴らしていきたいと思います。
不定期の寄稿となりますが、もし読者の皆さんの中に「役所のココが理解できない」「公務員のココが知りたい」という点がございましたらどうぞ編集部あてに気軽に声をお寄せください。その内容も踏まえて次回以降の筆を走らせたいと思います。それでは皆さん、今後ともよろしくお願いいたします。