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PPPAメルマガご愛読の皆さん、前回の配信から少し間が空きましたがいかがお過ごしでしょうか。
このメルマガは、自治体の財政担当課長だった私の経験を基に、役所の外にいる皆さん(公務員ではない一般市民)が疑問に思う、お役所ムラの内部事情について、皆さんの関心事や私が知ってほしいという観点でチョイスした情報をお届けするという趣旨で連載を開始したものです。本日は、自治体へ提案した際に必ず出る話題「予算」についてのお話をご紹介させていただきます。
「予算がない」は本当か
前回の記事にも書きましたが、役所と取引のある民間企業の皆さんから「優れた製品やサービスを紹介しても担当者から「予算がない」と言われてしまうが予算がないなんて筈はないのではないか」というご意見をよくお聴きします。
確かに、数百億円、数千億円もある自治体の予算規模からすれば、数十万から数百万円程度の予算なんぞなんとか工面できそうな規模感ではありますね。
さて、この担当者の「予算がない」というのは本当なのでしょうか。
余っているお金はありません
まず自治体における「予算」とは何か、なぜ「予算」が定められているのかというところを押さえておきましょう。
自治体の職員ですら「予算」という言葉を誤解しているので無理のない話ですが、皆さん「予算」という言葉を一面からしか理解されていないようですね。
前述のご意見の中で「予算」という言葉は「支出に使えるお金の額」という意味で用いられていますが、予算というのは支出側だけではなく収入側も含めた計画ですので、年間の予算ということであれば、1年間に入ってくるお金と支払うお金の予定の両方を意味します。
この収入と支出の予定が表裏一体の計画として定められたものが「予算」です。詳しくは別の機会に述べますが、自治体の収支バランスというのはかなり厳しく、限られた収入を多種多様な施策事業の支出に充てているため、基本的にはすべての収入が何らかの支出に充てられ、予算の段階で収支均衡が図られていることから、使途の定まっていない、余っている収入というものは存在しません。
このため、民間企業から新たな提案をいただいた場合に「すぐに判断して使うことができる」という意味での「予算はない」という返答になってしまうのです。
立ちはだかる財政課の高い壁
では、自治体の内部で折衝し、他の事業の予算を回す、基金を取り崩す、借金をするなどして使えるお金を調達してくればいい、と思われることでしょう。
もちろんそのような方法で支出したい金額を確保することは可能です。
しかしその場合には、予算を編成する権限を持った財政課という大きなハードルが立ちはだかります。
「この事業,本当に必要ですか」「こんなことやって効果があるんですか」「もう少し安い金額でできませんか」「この経費の積算,甘くないですか」「他都市ではいくらかかっていますか」「昨年はいくらかかりましたか」「業者の見積書を持ってきてください」などなど,予算を使って何かやろうとすると途端に財政課の質問攻めが始まります。
なぜ財政課はこれほど人の仕事にケチをつけてくるのか。
それは簡単なことで、まず自治体の収入は限られており、その範囲内でしか支出の予算が組めません。
そして、自治体の収入はその大半が市民から預かった貴重な税金ですので、その使途の目的、金額、内容について納税者の代表である議会が議案として承認しなければ勝手に使うことができません。
この二点をクリアするためには、使途の定まっていない財源が確保でき、必要な施策事業に手当される見通しが立つ必要があります。
さらに、議会でその事業の必要性や内容が承認される見込みであることを確認して初めて、財政課は予算計上にゴーサインを出し、議会に予算案を上程してくれるのです。
なかなか合わないタイミング
「予算がない」が「予算がある」に変わるためにはこのような庁内プロセスを経る必要がありますが、これが年中いつでも議論できるというわけではないところがまた窮屈です。
自治体の予算編成は年度単位。4月から3月までを1年度とし、前年度の3月に議会で可決承認された年度予算を4月から執行していくことになります。
予算は議会で説明し、承認を受けたものであるため、勝手にその内容を変更することができず、その変更が必要な場合には予算を補正するという案を議会に提出し、可決させなければなりません。
この補正予算のタイミングも概ね決まっており、だいたい6月、9月、12月、2月の4回議会が開催されるため、その2ヶ月前くらいには財政課との協議を始めなければいけません。
もし3月に議案提出する年間を通じた予算(当初予算と言います)に計上するとすれば、その締め切りは前年秋。自治体によってまちまちですが遅くとも11月には財政課の協議を始めなければ3月議会に予算案を提出することは難しいでしょう。
どんなに素晴らしい提案も役所内部の合意形成プロセスにうまく乗れないと予算を計上し事業に取り組むことはできません。
このあたりが、外側から見てモヤモヤしてしまうところですよね。
仕事が遅いのは全体最適のため?
これらのことは決して悪気があるわけではなく怠慢というわけでもありません。
自治体が仕事をするうえで、市民から預かる税金が公明正大に使われ、その使途が市民の求めるものに合致するという大きな意味での市民利益のために、組織の中で収入と支出を管理する部門を分業しており、そのそれぞれの部門で所管する判断基準に照らして仕事をし、内部で互いに主張しあい、折衝することで全体最適を図るという仕事の進め方になっているわけです。
しかしながら、個別の事象としては、「役所は仕事が遅い」「判断が鈍い」「自分以外の部署に判断を押し付けて責任を回避する」といった批判の声が上がりやすいということなのです。
せめて現場の担当者に与えられた裁量がもう少し明確でその範囲内できちんと対応できたり、財政課に協議するにしても一定の期間内で返答できたりすればいいのでしょうけどね。
この手の問題を解決するためには、役所の中での仕事のやり方を変えていく必要はもちろんあるのですが、役所がどうしてそんな仕事をやり方なのかというとその根拠は大きな意味では、市民がそれを求めているという側面もありますので一概に役所だけがその批判を受けるべきものでもないと私は思っています。
そのあたりについては、また別の機会にお話しますね。
皆さんが聞きたいことは何ですか?
このコラムでは、私の得意分野である「財政」「予算」という話題を中心に皆さんの疑問にお答えし、読者の皆さんのモヤモヤを晴らしていきたいと思います。
不定期の寄稿となりますが、もし読者の皆さんの中に「役所のココが理解できない」「公務員のココが知りたい」という点がございましたらどうぞ編集部あてに気軽に声をお寄せください。