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PPPAメルマガご愛読の皆さん、前回の配信からまた少し間が空きましたがいかがお過ごしでしょうか。
前回は、役所が民間企業からのご提案、営業活動に対して「予算がない」と言われるその真意についてご紹介したところです。
「予算がない」は正しく言えば「予算編成の俎上に乗せることができない」という意味だということ、おわかりいただけたでしょうか。
では、どうすれば役所の中で予算編成の俎上に乗せることができるのでしょうか。
越えなければならない壁
前回、予算編成過程で立ちはだかる財政課の高い壁についてご紹介しましたが、すべての施策事業の予算計上に財政課が強く関与しているわけではありません。
私は過去に、福岡市の財政調整課長として福岡市の予算全般をつかさどる、いわゆる金庫番の仕事をしていました。当時の福岡市の一般会計予算の規模は約8000億円。事業数で言うと3000もの事業単位で予算が計上されていましたが、私がその一つ一つに全部目を通し、目的や内容の正当性、実施方法や経費積算の妥当性などをチェックしていたわけではありません。
ほとんどの施策事業は、予算を執行する現場で企画立案され、手法や事業のボリュームが検討され、その内容や量に応じて経費が積算されますから、現場に取り組む意欲がないものはそもそも予算要求段階で俎上に上がりません。
予算要求があったものについては、財政課ではその適切性、妥当性を審査しますが、予算を要求する現場からの説明を聴き、議論したうえで判断しますので、現場がどう考えているのか、というのは大事な要素です。
さらに、予算編成の過程で議論し、予算を計上するという結論がでたものについては、計上された予算の執行(物品の購入や委託業務の発注など)についてはより財政課の関与は希薄になります。
自治体によって、また個々の施策事業や経費の性質によって財政課長の権限、責任には差がありますが、財政課が首を縦に振らないから予算がつかない、というのは、新規事業が実施できない理由のほんの一部に過ぎず、それはむしろ担当者の言い訳なのではないかというのが私の考えです。
新しいことには挑戦したくない
皆さんが営業で自治体を訪ねてみて、壁を感じるのは財政課ではなくむしろその業務を実際に行う担当課、担当者の心理的障壁ではないでしょうか。
公務員の多くは保守的で、新しい施策事業を企画する、これまでと違ったやり方でやってみる、発注や契約の方法を変えるといった「変革」を億劫に感じる気質があります。
新しいことに挑戦したって時間をとられるだけで、それで何か評価され給料が上がるわけでもないし、と考え、その評価軸が組織内部にない以上、モチベーションが上がらないという職員も少なからずいます。
しかし、自治体職員はそんなに怠惰なめんどくさがり屋ばかりではありません。むしろ使命感を持って与えられた仕事をきちんとこなす人が多い印象です。それなのにどうしてそんな真面目で能力の高い人たちが、新しい仕事を敬遠するのでしょう。
実は、この自治体職員の生真面目さが新たな業務を敬遠する原因ではないかと思うのです。以前、研修で財政制度について民間人や大学生と議論したときに、財政課で受け取る予算要求が多すぎてその査定が大変という話をしたら、なぜみんな給料も増えないのにそんなに予算を獲得して仕事がしたいんだと怪訝そうな顔で尋ねられたことがあり、目からうろこが落ちました。
公務員の多くは、例え給料がびた一文増えなくても、自分たちの業務範囲の予算を獲得してもっと多くの仕事をしたい(そのための人員も獲得することが前提ですが)と考える、仕事大好き人間なのです。
この感覚と、新しい仕事が嫌だという感覚との差はどこにあるのでしょうか。
唯我独尊の公務員気質
それは「自分自身がそれを必要だと考えているか」ということに尽きます。
使命感が強くて真面目な自治体職員の多くは、自分がその必要性を理解し納得できればその業務遂行に注力することを使命と感じることができます。
しかし、意に沿わないものであれば「それは本当に必要なのか」「うちの職場で人員を割いてまでやる必要があるのか」ととたんに抵抗勢力へと変わります。
議会からの質問への回答、市民からの苦情への対応、国が創設した新しい施策の実施体制の整備など、既存の業務分担で整理できない、組織の所掌事務の隙間に落ちる案件はみんなこのパターンで「誰がやるのか問題」が発生します。
納得できないことはしたくないという強い自我が原因で、唯々諾々と指示どおりに動くことを潔しとしないことが往々にしてあるのが我々の業界なのです。
もちろん、自分の意の沿わない仕事なんてものは自治体職員だろうと民間だろうとあるわけですが、納得がいくかどうかの判断軸が民間の場合「利益につながるか」というわかりやすい基準であるのに対し、行政組織の場合、何がより優先されるべきなのかが数値で測れないあいまいなものが多く、なぜそれに取り組まなければいけないのか、という組織全体の共通目標、価値観が共有しづらい面があります。
また業務が多岐にわたり担う政策が異なる部署ごとに目指す目標もばらつきがあることから、部門間、職員間でお互いに共通認識を持たなければ組織全体として何が大事かという合意を得ることが難しく、予算化や事業化に際して財政課を含めた庁内関係所属の合意を得るために労力を要することが多いのも事実です。
このことが担当する個人がどう思うかによって新たなチャレンジを忌避できる風土を醸成しているのです。
やる気スイッチはどこにある
では、このような弊害を生む自治体職員の強い自我は不要か、というとそうではありません。
もともと給料や昇任のインセンティブがなくても自分が担当している業務をより領域拡大し市民サービスの向上を図りたいと考える自治体職員の強い自我、使命感が、多岐にわたる自治体業務を安定的に遂行する機能の根幹です。
ただちょっと欠けているのは、視座を高く上げてその強い自我、使命感を自分の業務領域以外のものに振り向け、俯瞰的に眺めて見える全体像にも関心と理解を示すこと。
近年、行政へのニーズの多様化、定員削減による担当業務範囲の拡大、災害等予期せぬ事象への対応の頻発など、自分の業務領域以外のものを見ざるを得ない、考えざるを得ない、前例のない局面がどんどん増えています。
そんな中で前例踏襲や組織間のたらいまわしで課題を先送りし、非効率な業務を継続することが市民の希望するふるまいではないという自覚は、多くの公務員が胸に秘めています。
そこでこの記事をお読みの皆さんにお願いです。私たち公務員の「やる気スイッチ」を探して、押してください。私たちが受け持つ個々の業務領域でよりよい施策事業を展開したいという強い自我、高い自尊心をくすぐり、どうすればもっと良くなるか、どうすれば庁内で合意を取り付けて実施のゴーサインをもらえるか、一緒に考えてください。
私たち公務員の「中の人」の論理にも理解を示しつつ、市民感覚や市場原理といった「外からの視点」を加えることで、それぞれの施策事業をよりよいものに磨き上げる。そういった意見交換、対話、議論ができる民間の方であれば、ぜひ一緒に仕事がしたいと私は思いますし、そう思う公務員は多いはずです。
「予算がない」と担当者に言い訳させることなく、まずはあるべき姿、目指す方向性、その実現手法を共有し、どうやったらそれが実現できるかを一緒に考える。
そんなパートナーシップの構築が、予算獲得の王道なのだと思います。
皆さんが聞きたいことは何ですか?
このコラムでは、私の得意分野である「財政」「予算」という話題を中心に皆さんの疑問にお答えし、読者の皆さんのモヤモヤを晴らしていきたいと思います。
不定期の寄稿となりますが、もし読者の皆さんの中に「役所のココが理解できない」「公務員のココが知りたい」という点がございましたらどうぞ編集部あてに気軽に声をお寄せください。