自治体営業における究極のゴール「随意契約」とは?

国や自治体との契約は、住民の福祉の向上に寄与するために行う施策や事業の目的達成の手段として締結されるものです。
これらの契約の多くは、公金の支出を伴うため、その手続きについては厳格な公共性が求められます。
自治体との間における適正な契約とは、契約の3原則として、「公正性の確保」「経済性の確保」「適正履行の確保」を兼ね備えたものとされています。
地方自治法上では、より効果的に公益を図る目的から、その契約方法として、「一般競争入札」「指名競争入札」「随意契約」「せり売り」の4つの方法に限定し、さらに地方公共団体の規則等でその手続きを定め、前述の契約の公正性、経済性、適正履行の確保を図っています。
その中で企業が自治体との仕事を進めていくうえでの究極のゴールが「随意契約」となります。
昨今、契約の透明性や公正性の観点から、随意契約を取るのが難しくなってきていますが、まずは随意契約について理解し、今後の契約獲得に向けての参考にしていただきたいと思います。
随意契約とは?
「随意契約」とはどういったものなのでしょうか。
まずは、随意契約のメリットや留意点についてみていきましょう。
随意契約のメリット
「地方公共団体 契約実務ハンドブック(第一法規株式会社)」によると、
「随意契約」とは、競争の方法によらないで、普通地方公共団体が任意に特定の相手方を選択して締結する契約方法をいう。
とあります。
随意契約は、自治体にとっては、一般競争入札や指名競争入札と比べて手続きが簡略で、経費面でも負担が少なくすみ、資力や信用、技術、経験等の相手の能力等を熟知の上選定することが出来るので、適切に運用されるのであれば目的の達成には非常に有効なものになりえます。
企業にとっても、通常の競争入札では、原則として価格についての競争であることから価格勝負にもなりがちであるが、随意契約においては、市が承諾することにより契約が成立するため、必ずしも価格のみではなく、他の要素も含めて契約の相手となることができるということです。
すなわち、業務の中身、内容等を比較し、最も有利となる条件を提示することができれば、自治体と契約することができるということです。
随意契約の留意点を押さえよう
自治体等の官公庁の運営財源は国民の税金です。
税金を使う時は、公平性や公正性が確保されていなければいけません。
よって、原則として一般競争入札となります。
大前提として、随意契約は、競争入札を原則とする契約方式の「例外」であるということです。その上で次の点に留意する必要があります。
- 業務等に精通している、納入実績がある、使い勝手が良い、という理由だけでは随意契約の理由にはならない。
- 用途に対して、品質、機能等が同一の他の物件が存在する場合には、原則としては競争入札になる。
随意契約が出来るケースは?
では、随意契約が出来る場合についてみていきたいと思います。
これは、地方自治法施行令第167条第2項によって定義されています。
少額の契約
売買、賃借、請負その他の契約でその予定価格(賃借の契約にあっては、予定賃貸借料の年額又は総額)が施行令別表第5条欄に掲げる契約の種類に応じ同表下欄に定める額の範囲内において普通地方公共団体の規則で定める額を超えないものをするとき。
少額な契約までも競争入札で行うと、事務負担量ばかりが増え、効率的な行政運営が出来なくなることから、契約の種類に応じた一定金額以内のものについては、随意契約によることができるとされています。
少額の範囲については、各自治体の契約規則によって定められているケースもあり、例えばさいたま市の場合は、下記のように定められています。
- 1.工事又は製造の請負(250万)
- 2.財産(公有財産、物品、債権、基金)の買入れ(160万円以下)
- 3.物件の借入れ(予定賃借料の年額又は総額が80万円以下)
- 4.財産の売払い(50万円以下)
- 5.物件の貸付け(予定賃貸料の年額又は総額が30万円以下)
- 6.前各号以外のもの(100万円以下)
その性質又は目的が競争入札に適しない契約をするとき
不動産の買入れ又は借入れ、普通地方公共団体が必要とする物品の製造、修理、加工又は納入に使用させるため必要な物品の売払いを他の契約でその性質又は目的が競争入札に適しないものをするとき。
ここでの「その性質又は目的」とは、「契約の内容」のことであり、契約の内容が競争入札に適しない場合ということになります。
すなわち、契約者以外の第三者に履行させることが業務の性質上不可能であるかどうかが要点となります。
注意点は、「業務内容を熟知しており信頼度が高い」「当該業務に精通していること」等をもって契約者を選定することは出来ないとされています。
例えば、特殊な技術、機器又は設備等を必要とする工事で、特定の者と契約を締結しなければ契約の目的を達成することが出来ない場合や、試験問題の印刷物の発注など、地方公共団体の行為を秘密にする必要がある場合などが該当します。
特定の施設等から物品を買入れ又は役務の提供を受ける契約をするとき
障害福祉等の増進といった一定の政策目的のために必要な随意契約を締結できるとされており、障害者支援施設や地域活動支援センター、障害福祉サービス事業を行う施設等において製作された物品を当該福祉関連施設等から買い入れる契約又は役務の提供を受ける場合です。なお、工事契約は該当しません。
新規事業分野の開拓事業者からの新商品の買入契約をするとき
① 新商品の生産により新たな事業分野の開拓を図る者として総務省令で定め るところにより普通地方公共団体の長又は地方公営企業の管理者(以下「普 通地方公共団体の長等」という。)の認定を受けた者が新商品として生産す る物品を当該認定を受けた者から普通地方公共団体の規則又は地方公営企業 の管理規程(以下「普通地方公共団体の規則等」という。)で定める手続に より借り入れる契約をするとき。
② 新役務の提供により新たな事業分野の開拓を図る者として総務省令で定め るところにより普通地方公共団体の長等の認定を受けた者から普通地方公共 団体の規則等で定める手続により新役務の提供を受ける契約をするとき。
引用:総行行第199号 総財公 第134号-地方自治法施行令及び地方公営企業法施行令の 一部を改正する政令等の施行について(通知)-
地方自治法施行規則第12条の3により認定を受けた事業者は、他に類がないものを生産、加工又は役務の提供において、その生産物等に新規性があり、他の同類の生産物や役務よりも優れた機能性があれば、自治体もその利益を享受することができるので、経済性及び競争性の原則の支障にならないことから、随意契約が可能となります。
なお対象は、新商品の買い入れや借り入れ契約、新役務の提供を受ける契約であり、工事契約は該当となりません。
緊急の必要によるもの
緊急の必要により競争入札に付することができないとき。
ここでいう「緊急の必要」とは、例えば災害時などで、一般競争入札や指名競争入札の手続きを取っていたのでは、その時期を逸してしまったり、契約の目的を達することが出来なくなり、経済上にも不利益を被る場合とされています。
なお、緊急の対応を行わなければ、重大な市民生活等への影響が生じるおそれがあることが大前提なので、単純に事故や故障をもって、直ちに随意契約となるものではありません。
例えば、堤防崩壊や道路陥没、感染症発症時における緊急に必要な蔓延防止のための薬品の購入などが当てはまります。
競争入札に付することが不利なもの
競争入札に付することが不利と認められるとき。
ここでいう「不利」とは、価格面の有利、不利ですが、その業務の品質、期間、安全性等も考慮して決定されます。
例えば、現在既に契約をしていて、そのまま翌年度も継続した方が、履行期間の短縮や経費の節減が確保できるなど有利だと認められる場合などが当てはまります。
競争見積もりを実施する際にはよく使われる適用号数で、一度契約を取れた業者としては、継続してその案件に係るためには目指したい要件となります。
時価に比して著しく有利な価格で契約ができるもの
時価に比して著しく有利な価格で契約を締結することができる見込みのあるとき。
「著しく有利な価格」とは、一般的に品質や性能が他のものと比較して問題がなく、時価を基準とした予定価格を勘案しても、競争入札にした場合よりもはるかに有利な価格であるケースです。
必要以上に価格を下げて利幅が取れないのであれば意味がありませんが、自治体との接点や実績を作るという意味ではありかもしれません。
競争入札に付し入札者又は落札者がないとき
競争入札に付し入札者がいないとき、又は再度の入札に付し落札者がいないとき。
競合が出てこない場合は、結果的に随意契約になるケースもあります。
落札者が契約を締結しないとき
落札者が契約を締結しないとき。
一般競争入札等で、落札者が決定したあとに、その落札者が契約を締結しないときに、随意契約となることもあります。
日時をあらためて再度競争入札になることもありますが、改めて競争入札する時間がない場合のケースです。
随意契約は可能?
ここまで、随意契約が実施されるケースを見てきましたが、昨今ますます契約の透明性や公正性が問われるようになってきており、随意契約を取るのが難しくなってきているなかで、実際に随意契約を獲得するのは可能なのでしょうか。
まずは随意契約に近い形を目指そう
実際に件数として多いのは、上記①の少額随意契約です。
ただ、あまり価格を落としたくない。
また緊急性を要する緊急随意契約もありますが、あくまで緊急なので、継続的に獲得を目指すものでもありません。
このように、実質的に随意契約を獲得するのが、なかなか困難になってきているなか、目指すべきは随意契約に「近い」形を目指すことではないでしょうか。
競争入札だったとしても、他社が参入出来なかったり、自社が勝つ確率が高ければ、実質的に随意契約に近い状態までは持っていくことができます。
次年度に向けての事業提案
次年度に自社が提案した事業が予算化されれば、当然、内容を一番よく知っている自社がその事業を勝ち取れる可能性が高くなります。
その為にも、積極的に事業の提案を自治体にしていきたいところです。
その際のポイントは2つです。
1つ目は、関連する行政計画を確認し、その方向性を押さえること。
2つ目は、その計画の実現に自社の製品やサービスがどのように貢献するかという観点での提案です。
仕様書作成に絡む
次年度に向けての事業提案が通り、予算化されれば、担当職員は「仕様書」の作成に進みます。
ここで、予算化にかかわり信頼関係をつくっておければ、この仕様書づくりにかかわったり、仕様書案作りを任されたりすることができます。
そこまで入ることが出来れば、仕様書の中に他社が参加しにくくするための参入障壁を仕掛けることが出来、一者入札になるなど、実質的な随意契約に近い形を目指しましょう。
随意契約まとめ
各自治体でも、「随意契約ガイドライン」として定められており、このガイドラインに沿った運営をしています。
該当する自治体のガイドラインを確認することも重要です。
随意契約が取りにくくなっていますが、まだまだ獲得する余地はあります。
一朝一夕には難しいですが、正しいアプローチをして、時間を掛けて随意契約を目指した営業活動をしていってもらいたいと思います。