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もらえるものはもらいたい
自治体内での予算獲得の議論の中で必ず話題に上るのが「補助金」です。
市町村であれば、国や都道府県からの補助を受けることができるかどうかは事業実施に際しての重要な判断要素です。
補助がなければ全額自治体からの持ち出しになりますのでそれだけ費用負担が増えるという問題もありますし、また国や都道府県が補助制度を作って積極的に事業を推奨しているという事実を以て、その必要性や効果への期待を議会、市民に説明しやすくするという効果もあります。
財政力の乏しい自治体では、国、都道府県の補助がつかない事業は実施しないというくらい厳しい査定基準を持っているところもあるようで、補助メニューの変更により対象外となった事業は廃止縮小の憂き目に遭うことも。
多くの職員が国、都道府県の補助メニューの新設や変更に一喜一憂しています。
補助金については、もらえるものはもらったほうがいいという考えが一般的で、補助金獲得のためにどんな手を尽くすかというところに腐心しがちですが、自治体の財政運営の観点からは留意すべきことがありますので、今日はそのあたりをお話しします。
自分では決められない「依存財源」
補助金は、専門用語でいうと「依存財源」かつ「特定財源」です。
自治体の収入はすべて何らかの支出の元手となることから「財源」と呼ばれますが、「自主財源と依存財源」「一般財源と特定財源」という区分で整理されます。
「自主財源」とは、地方自治体が自主的に得ることができる財源です。
都道府県税・市町村税など自治体が賦課徴収する税金、公共施設の使用料や許認可手続きの手数料、自治体の保有資産の売却や貸付などによる財産収入などがあります。
「依存財源」とは、国などの意思決定に基づき交付を受けて得られる財源で、国からの補助金や負担金など、国が定めるルールに従って交付される国庫支出金、国が国税として集めたものを国が定めるルールで配分する地方譲与税や地方交付税、原則的に禁止されている自治体の借金を国が定めるルールに従って認めた場合に発行する地方債などがあります。
自主財源は、文字通り自ら自治体が自らの意思で賦課を決定し徴収するもので、自治体運営の基礎となるものですが、多くの自治体は半分以上の財源を国などから交付される補助金や地方交付税に依存しています。
その交付対象や金額はそれぞれのメニューで異なりますが、国の目指す政策の方向性や国の財政状況などに基づく国の判断によって決定され、地方自治体はその決定に従うしかありません。
使途が自由にならない「特定財源」
財源の区分にはもう一つ、「特定財源」と「一般財源」という分け方があります。
「特定財源」はその名の通り、特定の目的のために使う財源です。
代表的なものは国庫補助金で、例えば自治体が道路や学校を作るときに国から補助金を受けて作ることがありますが、この補助金は、道路を作る目的、学校を作る目的で国から交付されますので、それを別の目的に使うことはできません。
道路の補助金が余ったから公園を作る、学校を作るというわけにはいかず、お金が余れば返さなければいけません。
「一般財源」は、自治体が自由に使い道を定めることができるお金で、都道府県・市町村税や、国が徴税した税を地方に分配する地方交付税や地方譲与税がこれにあたります。
一般財源だから自由に使えるといっても、多くの自治体ではその一般財源についても地方交付税などの依存財源に頼らざるを得ず、地方自治体の収入のうちで、自由に使い道を決めることができる「一般財源」を、自分の力で稼いだ「自主財源」で賄えるのは税源の豊かな一部の自治体に限られています。
また、特定財源を充当する事業のほとんどは、その事業費の一部の財源については自治体にも負担を求めることが通例です。
例えば事業費の50%について国の補助があったとしても、残りの50%は自治体が一般財源で負担し、その総額について、国の定める補助金交付のルールで使い道に縛りがかかりますので、一般財源であっても特定財源と併用する場合には使途が制限されることになります。
多くの自治体ではその収入の大半は国が定めたルールに基づき国から交付される財源に依存し、その使い道も国が定めたルールに制約されているのです。
補助金頼みの悪弊
補助金などの依存財源、特定財源に頼りすぎると、自治体の財政運営の自主性、自律性を阻害します。
自治体の財源全体としては半分以上が依存財源ですから、お金が足りなければ国に無心すればいいと考えてしまいがちです。
また、使えるお金の大半は特定財源としてすでに使い道が決まっているので、なんとか工夫してやりくりするという意欲があまり湧かず、もらったらなるべく余らせずに使い切ろうと考えます。
加えて、個々の事業単位で言えば、本来は必要な支出に充てるための収入を、財源としてたくさんもらうこと、もらい続けることの方が目的化し、それを充てる支出の側が真に必要な施策事業であるかどうかの吟味検証が不十分になるというリスクもありますし、補助対象の外側にある負担、例えば事業計画に盛り込み一体不可分のものとして実施すべきものであっても、補助対象外とされた事業部分については自治体単独での負担を強いられ、施設整備などでは整備費は補助で見てもらえてもその維持管理費や更新等の将来負担は見てもらえません。
補助という外部資金に目がくらみ、真に必要かどうか疑義のあるものに投資したり、補助対象外のものまで加えるとかえって高くついてしまったりというリスクがありますし、自主的、自律的に財政運営を行うことができなくなってしまうということにもなりかねないのです。
自己責任でしたたかな活用を
もちろんこの財政制度は地方自治体を甘やかすためのものではありません。
自治体ごとに置かれた環境や経済の状況が異なり、自前の財源で賄える収入がまちまちであるのに対して、法令で定めた自治体の責務を全国共通の水準で果たさなければいけません
また、国が目指す国家の姿に近づけるために、国はその政策目的に応じて底上げが必要な地域や事業に厚く財源を配分し、その実現を促進したいという考えが根底にあります。
そうした国の護送船団の庇護のおかげで、私たち国民は全国どこにいても均質なサービスを受けることができ、国土の均衡ある発展の恩恵を受けることができていますが、一方で、自治体が自らの財源で自律的に経営しようとするモチベーションを持ちにくいという課題を残しています。
しかしながら、今配られているお金だって国の都合でしかなく、極論すればいつ一方的に打ち切られるかわかりません。
自治体は常に、国に責任を転嫁することなく自治体の財政運営に責任を持ち、自己完結するしかないのです。
従って、本来、自前で稼げる財源の規模やその持続可能性を十分認識し、その身の丈に合った財政運営を行う基本の姿について十分な情報共有が必要です。
その前提を理解したうえで、自治体運営上必要不可欠な施策事業を実施するにあたり不足する額については国等の用意するメニューの中から充当できる財源を探し、過度の依存にならないよう留意しながらしたたかに活用していくしか道はありません。
自治体で必要なすべての経費を自前で賄えるわけではないので、国等の財源に依存するしかないのですが、万が一その財源が与えられず、充当を予定していた事業を見直さざるを得ないという場合にも、その説明を国に求めることはできず、結局は自治体自らが市民に対する説明責任を果たすしかないのですから。
今村 寛(福岡市職員)
財政課長時代に培った知見を軸に出張財政出前講座を全国で展開し約10年間で220回を数える傍ら、市職員有志によるオフサイトミーティング「明日晴れるかな」を主宰。「対立を対話で乗り越える」を合言葉に、職場や立場を離れた自由な対話の場づくりを進めている。著書/ 『自治体の“台所”事情~“財政が厳しい”ってどういうこと? 』(ぎょうせい),『「対話」で変える公務員の仕事~ 自治体職員の「対話力」が未来を拓く』( 公職研)。
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