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自治体予算獲得への道|第9回 ビルド&スクラップ

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自治体予算獲得への道|第9回 ビルド&スクラップ

2024.10.29

官民連携コラム

目次

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新規事業は四面楚歌

「自治体予算獲得への道」などと大げさなタイトルを掲げてこれまで自治体における予算編成の実情をお話ししてきましたが、中でも皆さんの一番関心の高い「どうすれば予算が付くのか」という点で回を重ねてきたところです。

「必要性」「緊急性」「重要性」に加えて「実効性」「効率性」「実現可能性」といった様々な要素についての要求水準をクリアしないといけないという総論をお話ししてきましたが、これだけの要素についてそれなりの理論武装をしてみても、これまでに取り組んだことのない事業について新たに予算を獲得することは並大抵のことではありません。

 たとえ同じ金額を予算化するにしても、地方自治体の中で新規事業の予算を獲得することは、既存事業の予算を増やすことの数倍の労力を要することですが、それは単に保守的だとか前例主義だとかいう組織風土、職員の気風によるものだけではありません。

 限られた財源を新規事業に配分するには既存の事業に配分していた財源を絞り、付け替える必要がありますが、この作業には既存事業を見直すという痛みが伴います。

 しかし、私たち公務員は「一度始めたことをなかなかやめられない」という呪縛に囚われているのです。

事業をやめることができないわけ

民間企業であれば、経営者の判断として赤字が継続し収支の改善が見込めない事業分野から撤退することが可能ですが、自治体の場合簡単ではありません。

自治体の業務領域の多くは法令で定められ、自治体の裁量でその事務そのものを止めてしまうことはできません。

このために国が各種の補助金や交付金、地方交付税などで所要の財源を手当てしてくれていますが、その財源手当てと引き換えに自治体は事業を拡大縮小する権限を奪われています。

自治体の裁量が及ぶものであっても過去の政策決定を覆し、既存の施策事業を見直すことは容易ではありません。

それぞれの施策事業の政策決定においては、その必要性や効果が示されており「必要だ」「効果がある」という判断をしたという前提があります。

この前提を覆すことが自治体においてはなかなか難しいのです。

自治体は市民から預かった税金を財源とし、市民から自治体運営に関する権限の信託を受け、それを間違いなく市民福祉の向上に役立てるために各種の施策事業を実施しています。

このため「役所のすることは間違いがない」という信頼を自然と市民から得ており、そのことが日々の行政運営を円滑に行う上で大いに役立っています。

しかしながら、この「間違いがない」と信頼されている自治体がこれまでの方針を変更しようとすると「今までと説明が違う」との反発を浴びることになります。

また、自治体は個々の政策判断を自治体職員がやっているのではなく、市民から選ばれた議員が構成する議会での審議を経て合意を図り決定しています。

既存の施策事業を見直すには、これまでの自治体と市民との信頼関係を維持しつつもこれまでの説明に基づく合意を覆す新たな説明と新たな合意が必要になるのです。

ビルド&スクラップで行こう

 既存事業を見直し、浮いた財源を新たな事業の財源に充てるというのは、行財政改革の世界で長年取り組まれてきた「スクラップ&ビルド」という概念です。

 しかしながら長年の行革の取り組みを経て、どの地方自治体も明らかに無駄ですぐにスクラップが可能なものは見当たらなくなり、見直しが必要なものであっても市民や議会の反対を恐れ、なかなか言い出せない、その結果見直すことができず、新たな事業に振り向ける財源を生み出すことができない、というジレンマに陥っています。

 この状況を打破するのが「ビルド&スクラップ」という発想の転換なのです。

既存事業の見直し(スクラップ)で得られた財源を活用して新たな事業を始める(ビルド)する「スクラップ&ビルド」では、既存事業の見直しが進まなければ新たな事業を始めることができませんが、その場合ネックになるのはなぜ既存事業の見直すのかという目的の希薄さゆえの改革モチベーションの低迷、「なんでうちがこの事業を見直さないといけないんだよ」という負の感情です。

当然、見直し対象となる事業の恩恵を受けている市民からも同様の批判にさらされることになります。

しかし、新たな事業を始めるために既存事業を見直す「ビルド&スクラップ」であればどうでしょう。

新しいことをやりたいときにそこで得られる課題解決の効果と比較して優先順位の低いものを見直していくのであれば、事業の見直しは目の前にある政策課題の解決という目的を達成するため手法となり、見直しの大義が立つわけです。

優先順位の最適化

枠配分予算などの仕組みにより、同じ政策分野を所管する部局単位で新規事業を「ビルド」する際に合わせて既存事業の「スクラップ」を議論することは非常に効果的です。

これまで実施してきた事業をただ不要だと切り捨てるのではなく、より重要性、緊急性の高い施策事業を行うことの優先順位が高まったため、同じ政策分野の中で、これまで行ってきた既存事業が上位を占める施策事業の優先順位を時代背景の変化や施策の効果、市民ニーズの変化などの状況に応じて見直し、最適化する。

この優先順位の最適化を、その政策分野の責任者である部長、局長が自分の責任において判断し、政策内での施策事業の重要性や求める成果に応じて柔軟に資源配分できることは、単に新規事業を始めることができるというだけでなく、効果の薄くなった施策事業を大きなハレーションなく見直すことができ、政策目標の実現に向かう施策事業を変化させ再構築していくことができます。

これは、政策を所管する事業担当課にとっても、政策の効果を享受する市民にとっても幸せなことであり、しかも限られた財源が最も有効に活用されることで、資源配分全体を所管する財政課もHAPPYになれる「三方よし」の方策なのです。

何を削るかではなく

これまで行革の世界で行われてきた「スクラップ&ビルド」では、何を削るかというところに議論が行きがちでした。

しかし、具体的な事業に切り込んで支出を削減する個別の見直しも大事ですが、それと並行して行わなければならないのは、まちの将来像、施策の対象となる市民やまちのありたい姿の共有です。

厳しい財政状況のなかで将来どのようなまちを残していきたいか。

必ず実現しなければいけないまちの将来像はどういうものか。

その実現こそが自治体運営の目的であり、事業の見直しはあくまでも手法。

財源が限られ、あれもこれもできない制約の中で、それでも必ず実現したいまちの未来はどんな姿か、まずその姿が描かれ、共有できなければ、その将来像の実現に必要なものは何かという視点で個別の事業を語ることができないはずです。

そのうえで将来像の実現のために必要不可欠なもの、優先順位の高いもの、力を入れていくべきものはどれか、逆に優先順位を下げざるを得ないものは何かを議論していく。

このプロセスがなければ、個々の事業の「必要性」の議論がかみ合うはずがありませんし、強引に削ることだけに終始すれば、あとで手元に残った施策事業の全体像を見て「こんなはずじゃなかったのに」ということにもなりかねません。

これから始まる予算編成の議論のなかで「何を削るか」ではなく「何を実現するか」というところに主眼を置き、かつ「そのために優先順位が下がるものは何か」という取捨選択もきちんと議論していくことが大事だと思います。

 

本記事の執筆者
今村 寛(福岡市職員)
財政課長時代に培った知見を軸に出張財政出前講座を全国で展開し約10年間で220回を数える傍ら、市職員有志によるオフサイトミーティング「明日晴れるかな」を主宰。「対立を対話で乗り越える」を合言葉に、職場や立場を離れた自由な対話の場づくりを進めている。著書/ 『自治体の“台所”事情~“財政が厳しい”ってどういうこと? 』(ぎょうせい),『「対話」で変える公務員の仕事~ 自治体職員の「対話力」が未来を拓く』( 公職研)。

 


 

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