地方創生拠点整備交付金とは?要綱や概要を解説

目次
はじめに
日本は先進諸国の中でも、もっとも少子高齢化が進行する国です。
2008年にピークを迎えて以降、予測されてきた以上に人口減少が加速しています。
年齢構成のバランスがくずれ、労働力不足が大きな社会問題となる中、都市部への人口流出、首都圏への一極化により、地方は衰退の危機にさらされています。
そうした局面の打開策として打ち出されたのが、「まち・ひと・しごと創生」事業です。
この施策により地方の衰退をとどめ、人口減少の克服と地方創生を目指します。
「地方創生拠点整備交付金」はその事業の一環として、地方への人材の流れをつくり、地域の活性化を図るための拠点となる施設整備を目的として交付されるものです。
地域ブランディングの促進やイノベーションを起こす場となる施設を置くことで、地方版総合戦略に従った各種事業が促進されることが期待されています。
対象事業となるのは、観光拠点の新設、駐車場など周辺設備の整備のほか、移住促進につなげるため空き家整備や、地域コミュニティの活動拠点に転用可能な建物の改修、観光施設の増改築なども含まれます。
良く似た交付金制度に「地方創生推進交付金」がありますが、そちらが事業や取り組みといったソフト面を支援するのに対し、「地方創生拠点整備交付金」はいわゆる「ハコモノ」を対象としている点が大きな違いです。
過去にも施設建設などに関して、さまざまな交付金制度が設けられてきました。
バラマキ型と揶揄され、成果を存続させられずに無用化した「ハコ」だけが残されるといった結果も数多く見られます。
そうした教訓を踏まえ「地方創生拠点整備交付金」では、これまでのハード事業とは異なる条件が与えられています。
申請にあたっては地方版総合戦略に従った他の取り組みとの整合性があることや、KPIの設定・PDCAサイクルの構築が求められます。
「地方創生拠点整備交付金」の交付条件は決して楽なものではありませんが、制度を活用した事例から地方創生の高い有効性が確認できるはずです。
地方創生拠点整備交付金とは
①地方創生拠点整備交付金の概要
「地方創生拠点整備交付金」は、地方創生につながる先導的な「施設整備」を支援する制度です。
対象となるのがソフト事業ではなく、地域活性化を目的とするハード事業であることがポイントとなります。
「地方創生拠点整備交付金」を申請する事業は、利活用方策が明らかでなければなりません。
とりあえず施設を造れば、何らかの用途が生まれるだろうという感覚では申請が通りません。
その施設の活用によって観光や農林水産業の振興、また移住者の増加、起業の促進、女性・高齢者の就業促進、交流人口の拡大や地域の消費拡大が見込まれるとする根拠を示す必要があります。
②指標と検証・改善のサイクルを重視
施設の整備が、将来的に地方創生の広がりを生み続けるようKPI(重要業績評価指標)の設定と PDCAサイクルの構築が求められています。
効果測定は民間の事業運営では必須とされる作業です。
費用対効果を測り、成果が出ていなければ改善に努めるのは、事業の継続を目指す上では当然のことです。
本交付金についても明確な指標を設定し、それを元にした検証が行われます。
検証の結果を公開し、地域住民や国に対して交付金受領の正当性を示さなければなりません。
③対象となる事業のイメージ
「地方創生拠点整備交付金」の対象となる事業に対しては、以下のようなイメージが提示されています。
- 観光や農林水産業の先駆的な振興に貢献する施設
- 地方への移住や起業につながる施設
- 女性や高齢者の就業を効果的に促進するための施設
- 交流人口の拡大や地域の消費拡大に効果的に結びつく施設
新しい視点をもって地域資源を効果的に活用し、イノベーションの拠点となる施設づくりができれば、自然と交流人口の増加に寄与します。
外からの企業誘致や流通チャネルの拡大、その土地ならではの発想をもつ起業家の創出も期待できます。
幅広い層の就業支援を行う基地的役割をもつ施設ができれば、女性や高齢者などの労働力の掘り起こしに役立つでしょう。
物理的な意味だけではなく、そこで生まれ育つ事業性をも含めた施設の整備を想定しているのが、「地方創生拠点整備交付金」なのです。
地方創生拠点整備交付金要綱
①地域再生法に基づく地方創生事業
「地方創生拠点整備交付金」は、地域再生法に基づく地方創生事業の一環です。
補助率は事業費の1/2とされ、対象となるのは地方公共団体です。
交付金申請にあたっては対象事業に係る地域再生計画を作成し、内閣総理大臣の認定を得る必要があります。
②施設建設が目的ではない
交付対象事業となるのは以下の2項目です。
- 施設整備事業:地方版総合戦略に位置付けられること。
地域再生計画に記載された施設の整備であり、新設、増築・改築が対象となります。
単なる修繕は不可とされています。
- 効果促進事業:整備対象施設の利活用に伴う事業
ただし、人件費や賃借料については充当できません。
また特定の個人・企業にかかるものは不可とされています。
2項目のいずれかを満たしている事業が対象となりますが、少なくとも1つ以上の施設整備事業が含まれている必要があります。
③地方創生拠点整備交付金事業の必要条件
「地方創生拠点整備交付金」を活用する事業は、先導性を備えたものであることとされています。
地域経済に貢献する事業推進の役割を果たし、地方活性化を永続的に導ける事業が求められます。
そのため該当事業は一過性に終わらず、継続して地域活性化に役立つものでなければなりません。
政策間連携、官民協働、地域間連携、自立性が重視されており、採択の際の基準となるため、計画の時点で、具体性をもって明記しておく必要があります。
また一定の期間内に重点的に行うことが可能な事業内容であり、かつ効率的に行われることが求められます。
早期に事業効果の現れるものでなければならないため、事業の進捗状況によっては、交付が取り消される可能性があります。
地方創生拠点整備交付金の活用事例
事例①岐阜県
岐阜県では「外国人技能検定受験者の増加に対応した技能検定会場(岐阜県人材開発支援センター(第4棟))の整備」事業に、本交付金を活用しています。
岐阜県は、製造業を基幹産業とする「モノづくり立県」です。
歴史的に高い技術力をもつ中小企業が多数あり、その運営状況は地域経済に直結しています。
製造業では業種全体が慢性的な人手不足に陥っていますが、岐阜県内の事業所でも同様の状況となり、このままでは事業運営に関わる問題となっています。
一方働き手の深刻化している中、定住外国人や外国人技能実習生は増加傾向にあり、産業振興に期待がかかっています。
しかし「モノづくり立県」として品質の高い製品を送り出し続けるには、労働力に技術力が伴わなければなりません。
外国人技能実習生をモノづくりの現場に導入していくためには、技能検定制度の受験者増大に対応できる施設拡充が急務です。
「地方創生拠点整備交付金」制度活用により、産業の底上げが期待されます。
事例②熊本県錦町
熊本県錦町では地域再生計画として、「次世代に平和をつなぐ拠点整備事業」を実施しています。
錦町が若者に行ったアンケートでは、転出の多くが就職を理由としていました。
人口の減少を抑制するためには十分な収入が得られる魅力ある街づくりが必要と考えた同町では、人吉海軍空港基地の現存する施設を、「山の中の海軍の町にしきひみつ基地ミュージアム」として整備する事業に乗り出します。
人吉海軍航空基地跡は戦争遺構として保存状態が良好な上、全国でも稀に見る規模をもっています。
モニターツアーの記事が掲載されると、大きな反響を呼び、問い合わせが殺到。
地域の観光資源としてこれを活かし、見学者受け入れの施設整備を行うとともに、物産振興策として商品開発を進めています。
事例③北海道北見市
北海道北見市では、「地域資源カーリングを活用した知名度向上と交流人口拡大のための拠点整備プロジェクト」の実施にあたり、「地方創生拠点整備交付金」を活用しています。
北見市はすでにいくつかのカーリングホールを有し、子どもたちや一般市民に向けた講習会を開催するなど、競技普及に力を入れてきました。
また大学の共同研究グループによるカーリングストーンのコントロールに関する実験に協力するなど、学術面においても貢献しています。
日本国内屈指のカーリングの街として知られる同市は、地域資源カーリングを活用した知名度向上と交流人口拡大のための拠点整備を目指します。
本プロジェクトでは老朽化が目立つカーリングホールの後継施設として、世界初の最先端スポーツ科学に基づく通年型カーリングホール整備に取り組んでいます。
事例④北海道蘭越町
北海道蘭越町では、「廃校を利用した地域活動拠点の整備計画」を推進しています。
少子高齢化にともない、地域コミュニティの中心であった小学校が次々と廃校となっていきます。
蘭越町の各地域ではそれまで学校行事があれば、地区の人たちがこぞって参加して盛り上げてきました。
小学校がなくなると集まる機会も少なくなり、地域からは活気が失われていきます。
そうした現状を変えていくために、同町では廃校を活用したカフェの運営や農産物の物販、しめなわや米菓子の製造販売といった地域振興の拠点づくりを目指します。
さらに基幹産業である農業の振興に向け、「農業伝承塾」を設置し「米作り教室」などを開催するための産業拠点施設としての活用も想定しています。
まとめ
国の地方創生策は近年ソフト面に注力されている傾向が見られましたが、「地方創生拠点整備交付金」はハード面をカバーする支援制度です。
地方版総合戦略の取り組み拠点としての施設を整備することで、ソフト事業の推進を加速させる狙いがあります。
そのため、これまでのような単なるハコモノ建設に終わらせることのないよう、ソフト事業との密接な連携が求められています。
KPIの設定、PDCAサイクルの構築により、地方創生に向けた各取り組みとの整合性を常に測定し、持続性のある効果の高い事業となることが期待されます。
交付金の活用にあたっては綿密な計画をもって、条件とされる要件をクリアしていく必要があります。